私立秀麗華美学園
「あーあ……なんかやっぱり、めんどくさいなあ」


少し口を尖らせ、窓枠に肘をつく。

ゆうかの「めんどくさい」の原因はわかっていた。
いつも、いつもこうなのだ。学園にいる間は、そろそろ顔見せに行かないと、なんて言っているくせに、あの豪奢な造りの校舎や季節の花々の咲き乱れる花壇の大群を離れ、2人で列車に乗るやいなや、ぶつくさ文句を言い始める。

自身の父親、花嶺淳三郎に対しての文句を、だ。


「えっと、1年半……ぐらいよね。あーあ、また、文句とか言われそうだなあ。去年のお正月、帰っとくんだったかなあ……」

「あの時帰りたくなくなったって、急に帰省中止したのは、ゆうかだっただろ」

「うんまあ、そうなんだけど。和人だって、苦手だなんだってこの間言ってたくせに」

「苦手だよ。うちの親より苦手」


花嶺淳三郎。ゆうかの父親で、イギリスと日本のハーフだ。
なのだが、本人の思想は復古主義に傾倒していて、特に日本古来の風習などの重んじ方には並々ならぬものがある。

なんでも幼少期の多くを欧州で勉強ばかりして過ごしたらしく、またその地では東洋顔をもって周囲の人々と馴染めなかったため、思春期に日本へ来て、大学を出て起業し、それが成功した頃に、反動として徐々にああなっていったようだ、と、ゆうかは母親から聞いていたそうだ。

なんだかよくわからないが、とにかく、とても変わり者でとてもすごい人なのだ。


「でもうちなんて、母親も父親も問題だからなあ」

「……ああ、まあうちはお母さんは普通だからね」


つまり今日の食事会の出席メンバーのうち、ゆうかと俺、ゆうかの母親を――あとは那美さんも――除くと、残るは変わった人ばかりなのである。
と、ゆうかと俺は同じ見解を示している。


「あーあ。考えたら頭痛くなってきた。寝る。着いたら起こして」

「はいはい」


ゆうかは手荷物からカーディガンを取り出して羽織り、俯いて目を閉じた。

俺はその一挙一動を見守り、ゆうかの呼吸が規則正しくなり始めるのを確認してから、かばんから雑誌を取り出した。


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