私立秀麗華美学園
門前のガードマンに挨拶して門を開けてもらい、敷地内を進む。
無駄に長い(と常日頃から思っていた)石段をあがり、巨大な白塗りの玄関扉の前に立った。


「もう来てるかなあ、お父さん」

「どうだろうなー」


2人して眉間にしわを寄せ待っていると、扉が開いた。昔からうちで働いてくれており、よく知る男性の使用人だったので声をかける。
2人分の荷物をどさりと置いて、靴を脱ごうと、する、と……


「お久しぶりだな」


威厳に満ちたその声に心拍数が跳ね上がる。
顔を上げてみると、そこにはやはり彼が立っていた。


「お……お久しぶりで、ございます……」


奇妙な敬語が不満だったのか、彼はフンと鼻を鳴らした。


わざわざ玄関でお出迎えくださるは、帰省道中話題の人物、花嶺淳三郎氏だった。

背丈はそれほど高くないが体格はいい。腕組みをしてどっしり構える姿は犬で言えばさながらセントバーナードだ。
口元には髭がたくわえられており、顔にはいつも厳めしい表情が張り付いている。


「ゆうか」

「はいはい、何よパパ」

「年に一度は顔見せにこんか。前に会ってから、随分経った気がするがな」

「正月は、ほら、風邪引いてたんだって。和人が」

「ふん、そんなことも言うとったか」


……凄まじい濡れ衣だ。そして初耳だ。


「馬鹿は風邪引かないんだけどな」

「なんのことかなあ」


小声で言うと、ゆうかは横を向いてコホコホと咳払いをした。


相変わらず不満げな表情をした淳三郎氏の視線を受けながら、室内履きに履き替え使用人に荷物を預けていると、中央の大階段から5人の人物が順に下りて来た。

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