私立秀麗華美学園



「ちょっと、咲。服着なさいってば。風邪引くわよ!」


こちらはゆうかと咲の部屋。

楕円形のテーブルの上には、湯気を立てたピンクのマグカップが2つ。
間を空けて置かれた綺麗な勉強机は各々の好みで飾られている。
ベッドはぴったりとくっつけて置かれ、一部屋の中に2人の空間と個人の空間が混在していた。


ゆうかの大声の原因は咲だ。
お風呂上がり、彼女はいつも素肌にバスタオル一枚で部屋をうろつくのだった。


「ええやん別にー。女2人の部屋やんか。あたしあほやから、風邪引かへんし」

「そんな理屈通るわけないでしょ」


毎晩のことに言い飽きたゆうかは小さくため息を漏らし、自分のマグカップを手に取った。
隣に咲が座り、同じくカップを片手に取り上げた。
香りがいつものハーブティであることを確認するようにカップを顔に近づけたあと、ゆうかの顔を覗き込んだ。


「……何よ」

「なあ、ゆうかってほんまにさあ、和人のこと嫌いなん?」

「別に、嫌いだなんて言ってないじゃない」


ゆうかの語勢は弱々しく、自分でもそれに気づいたようで、咲から目を逸らした。

そのまま視線をカップへと押し込み、息を吹きかけ冷ましたハーブティをごくりと一口流し込む。

小さな沈黙の間に、咲もそれを何度か繰り返した。


「……ほんなら、今結婚せえ言われたら?」

「しないわよ。逃げてやる。今この時代、親が決めた結婚なんかに従うもんですか」

「そんなん、言ってもしょうがないって、わかってるくせに」


咲の言葉にゆうかは口を閉ざした。


「ゆうかは自分のきつい境遇、受け入れてる方やん。周りに比べて。やのに、和人とのことに関してだけは、妙に反発してるから」


咲は言葉をきり中身の減ったマグカップを見つめた。
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