私立秀麗華美学園
「……から、よっぽど嫌なんかなーって、ずっと思ってきたけど。でもな、正直そんな風には思えへん」

「嫌い、じゃないけど」

「……あの、今年同じクラスになった。笠井のこと、好きなん?」


まっすぐな咲の視線を受け、ゆうかは彼女の思っていることを敏感に感じ取った。


咲にとって、和人だって友達である以上は、和人が悲しむのを見るのは嫌なのだ。
私の幸せを願ってくれると同時に。
咲は、優しいから。
誰もが幸せになれる結末を迎えたく、咲は私の本当の気持ちを知りたいと思ったのだ。


ゆうかはふっと息をつき、またカップを口へ運んだ。


「本当に好きだと断言はできない。紳士ぶってる笠井 進、見てて、おかしいぐらいだもの」

「知ってたんや。素顔」

「私があんな虚像に騙されるわけないでしょ」


ゆうかは、常日頃から和人が「小悪魔の微笑み」と称する、艶やかな笑みを浮かべた。


「あんな形だけの紳士を保っていられるのも、一種の才能じゃないかしら」

「またそんなこと言って」

「そうね。仮にも好きなひとにね」


ゆうかは微笑んで言い、ハーブティを全て流し込んだ。
空になったカップをサイドテーブルに置き、ベッドに寝そべる。


「……高等部になってからさ。私たちの自由、かなり広がったと思わない?」

「うん」


天井を見つめるゆうかは無表情だった。


「皺の寄った羽が、少しだけ伸ばせる年になって、誰でもいいからつくりたかっただけなのかもしれない。好きなひと」

「うん」

「だとしても、私は和人じゃないひとを選んだ。騎士である、和人じゃないひと」

「うん」

「自分の気持ちは、案外自分が一番よくわかってないとか、よく言うよね」

「……うん」

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