私立秀麗華美学園
「那美さん、いろいろお話できて楽しかったです」

「わたしもよ。ねぇ、ゆうかちゃん」


ぎゃあぎゃあと学園祭のことと牛の美点を主張してくる兄ちゃんを交わしつつ2人の方に視線をやると、那美さんがゆうかの耳元に口を近づけた。


「――ね?」

「……はい」


わかりました、とゆうかが呟くのはかろうじて聞こえたが、那美さんがゆうかに何を囁いたのかはまったくわからなかった。


「おいこら和人、兄ちゃんの話を聞いてるのか!」

「聞いてないよ」


むきーっとなる兄ちゃんの髪の毛をを那美さんががしっとつかんでくれる。

那美さんは俺に笑顔を向けた。「こいつは任せといてね」と言われたっぽい。


「ゆうか、本当に送らなくていいの?」

「うん。まだそんなに暑くもないし、大丈夫よ。1人で歩きたい気分なの」

「ゆうかが戻るぐらいに俺も寮に戻るから」

「はいはい」


ゆうかが笑って、全員の方を向き、ぺこりと頭を下げた。


「それじゃあ、おいとまします。4日間も本当に、ありがとうございました」



口ぐちに別れを言って、手を振る。駆け出そうとする兄ちゃんの服の裾を那美さんがしっかりつかんでいた。浴衣だろうが洋服だろうが、那美さんはいつでも兄ちゃんをつかまえてくれているのだ。


俺はこれからの10日間ぐらいのことを思うと気が重かったが、1日目の夜のことを思い出して、また学園でゆうかに会える時まで、なんとか頑張って行こうと思った。

ここにいる間は浴衣を寝間着にしていようと思う。

きっとゆうかも、筒袖の浴衣を、毎晩着ることになるのだろうから。



















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