私立秀麗華美学園
確か中間テストの順位発表の日だ。
雄吾はその人物と対峙し、嫌味を言い合ったのだった。


「殿下だ」


雄吾はぼそりと呟いた。

その危うい足取りの人物は、殿下、つまり、笠井進だったのだ。

A組のおかしな言葉遣いの殿下。確かあの時はそう言ってやったのだ。向こうからも何か言われた覚えはあるが、本人が覚えていないらしいので省略。


「……怪し過ぎる……」


笠井はやはり、ひどくうなだれている様子だった。背筋がぐんにゃりしていて、なんというか、この世の全てがどうでもよくなってしまったような歩き方だ。


もちろん彼は雄吾にとっても気持ちのいい人物ではなかった。和人の恋敵でもあり、何より彼の兄にはひどく困らされた。

書籍も重たいし、Uターンしようかとも思ったが、笠井の怪しげな足取りと明らかに落ち込んだ様子に、どうも興味をそそられてしまった。

暫し逡巡した挙句、雄吾はもう少しだけ笠井のあとを追ってみることに決めた。







尾行をすること数分。

もともとそこを目指していたのかたまたま辿り着いただけなのかはわからないが、笠井はある場所へ入って行った。


「……花?」


そこは植物園だった。
ゆうかや彼女に引っ張られた和人がよく訪れている場所である。


雄吾自身も初めてというわけではなかったが、あまり来ない場所だ。
男子生徒が植物園に1人で訪れるというのは普通に考えてもそうそうないことだろう。


笠井は相も変わらずふらりふらりと歩みを進めていた。

甘やかな香りを振り撒き、窓辺から身を乗り出して誘いをかける女の子のように咲きこぼれる花々には目もくれない。久々の来客に素通りされた美しき花たちは、自尊心を傷つけられてしょげたようにも見えた。
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