私立秀麗華美学園
そんな調子で植物園を歩き回る笠井だったが、ふと顔をあげると、ある看板を見た。

【秀麗華美薔薇造園】

すると彼は、今度は明らかな意志をもって、その場所を目指し始めたようだ。

棘のついた蔦を模したアーチをくぐる。

目を細め看板の文字を理解した雄吾も、遅れてそれをくぐった。



薔薇園には様々な色形をした薔薇が植えられていた。
一苗一苗大切に植えられたものや、まとまって植わり華やかさを演出しているミニ薔薇などもある。

なかなかに壮麗な景色に雄吾は足を止め辺りを見渡した。
なるほど学園の誇る造園なだけはある。手厚い世話がなされているのだろう。


前方を見れば笠井が花壇を眺めつつとぼとぼと歩いている。背が高く鮮やかな赤色をした一際見事な薔薇の隣に彼は立ち止まり、その花弁をそっと撫でた。


少し近づき横顔を伺うと、らしくない、心細そうな顔をしていた。

雄吾が見聞きして知る限りでは、彼は相当な自信家で、人を見下したような態度をとるのが常だった。

目の焦点もあっておらず、憎い相手であるのに、雄吾はまたも心配になった。普段の雄吾であれば気に止めもしなかったかもしれないが、先の旅行の折の出来事が頭をかすめ、いつもと違って寂しげな同級生の様子が、どうしても気にかかってしまった。

口下手な雄吾は何度も声をかけようとしては、やめた。何度目かの試みののち、今度こそと思って口を開いた時。


「おーっ! お前は、確か、笠井進だな! どうしたどうした、しょぼくれた顔しやがって!」


……もちろん、雄吾の言葉ではない。おもむろに笠井に声をかけたのは、どぎつい金髪で作業服姿の男だった。


先を越された雄吾は思わず近くの彫刻の台座に身を隠した。

声をかける寸前だったためにかなりの近距離にいたのだが、正体不明の男にも、彼に声をかけられて振り向いた笠井にも気づいた様子はなかった。


「あれ? 違った? 笠井進じゃなかったっけか?」

「……いかにも、笠井進だが」

「だよな! 3年はもう完璧なんだけどな、2年はまだA組の途中なんだよなー」


あからさまに不快そうな顔をした笠井も気に止めずへらへらと笑う男の顔を見て、雄吾は思い出した。
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