私立秀麗華美学園
彼は新しく学園に雇われた庭師だ。
集会ではふざけた身なりながらも、学生の在り方についてのスピーチを飾らない言葉ですらすらと述べていた。

和人からも彼については聞いていたので大体の人となりはわかっていたが、突然にして、知り合いでもない人間にあれほど親しげな態度で話しかけられるものなのか、と驚いた。


「ああ……新しい庭師か。本当に金髪なんだな。クラスの奴が噂していたなぁ」

「あー、集会の時は黒染めしたけどな。なんか落ち着かねーんだよ。ところでお前、くそ真面目な生徒って聞いてたけど、そうでもねーな。生意気なツラだ!」

わはははは、と何がおかしいのか、男――集会では、零、と名乗っていた――は笑い始める。その横の笠井は、しまったという顔をしていた。


特に興味のない人間や男子生徒の前では、和人がいつも言う通り猫かぶりのエセ紳士なのだが、大人や女生徒の前では、言う通り、優等生を通してきた。

気が滅入っていたせいか今日は油断してしまったらしい。相手が学園の使用人だからとか、そういう理由ではなく。


「……気のせいですよ。生意気だなんて滅相もない」

「そんな苦々しい顔で言われてもなあ。ちなみに俺は猫かぶりは大っきらいだ! 素直なやつが好きだぞー。特に女の子が。んでもって特に年上が」


うわはははとまたもや笑いだす零の相手をするのが疲れたのか、笠井はめんどくさそうな表情をすると「そうですか。ではまた」と言って足早に立ち去ろうとした、のだが。


「おいおい待て待て。さてはお前、こんな美形が世の中に存在したのか、って驚いてんだろ!」

「…………それでは」

「うおおおい冗談だよ冗談! 待てってお前! そんな落ち込んだ様子で、お前みたいなやつが1人でここくるなんて、何かあったんだろ?」


その言葉に、笠井は少なからず反応したように見えた。一瞬ひるんだような表情になり、方向を変えて歩き去ろうとする。

零は手にした肥料の袋とホースをおろし、笠井の腕をつかんだ。
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