私立秀麗華美学園
「離してください。僕は、」

「だからその似合わねえ口調やめろっつの。捨て猫みたいな顔しやがって。さては、女だな?」


笠井は目を見開いて、乱暴に零の腕をふりほどいた。


「……ほっとけよ!」

「ほらほら本性現わしやがった。ほっとかねーよ。あいにくお節介なもので。なんだよ、話してみろよ」

「……絶対話さん」

「話せよ」

「話さん」

「話せ」

「嫌だ」

「この水ぶっかけるぞ」

「…………」


零はホースを拾い上げると片方をすぐ傍の水道に繋ぎ、もう片端を笠井の方に向けた。
蛇口に手をかけにやにや笑う。

笠井は零の子供のような表情に呆れたのか、強引なやり口に抵抗を諦めたのか、しぶしぶと言った様子で口を開いた。


「女だよ」

「やっぱりな! お前みたいなプライドの高そうなやつがそこまで落ち込むのは、大体女絡みなんだよ。で、相手は? ここの生徒か?」

「ああそうですよ」


投げやりな口調で、ため息交じりに笠井は言った。開き直ったように花壇の前にしゃがみ込むと、呟くように語り出す。


「女だよ。手に入るかもって思った途端、また遠ざかって行っちゃった女の子だよ」

「どんな子だ?」

「……最初に会った時、なんて可愛い子なんだろうと思って。それに度胸もある子だった」

「ほほう。ほぼ一目惚れパターンか」

「最初は興味だけだったけど、話すうち、彼女は他の子とはちょっと違うなって思った。

俺は家も大きいし、バスケやってて、そのこととか、何かと特別視されることが多かった。
でも彼女はそうじゃなくって……なんか、この子は、この子だけは、自分のことわかってくれるような気がして」

「ああ、わかるわかる。向こうも別に、それを狙ってるわけじゃないんだよな。
偏見とかそういうものが、もともとないか、気にしない性質なのか。
この学園じゃあ、確かに貴重かもなあ」


零がしみじみと呟いたのを聞いた笠井は驚いた様子だった。まさか、共感してもらえるとは思ってもみなかったのだろう。

笠井は、続きを話すため、自然と口を開いていた。


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