私立秀麗華美学園
「タイミングの問題だろ。ちょっと運が悪かったんだよ、きっと。
お前ならまた見つけられるはずだよ。大丈夫だ、お前は」

「……でも、本当は」


俯いた笠井は思いつめたような声を出す。


「叶ったとしたって、許してもらえるわけがないんだ……!」


嗚咽が漏れる。両目をぎゅっと閉じ、辛そうな表情をしていた。


「忘れたようなふりをしてたけど。
俺は兄貴より成績も良くないし、いろいろと劣ってんだ。
そのせいで父親とはうまくいってなくて、たぶん俺は、道具にしか思われてないんだよ。
今はまだ相手が見つかってないだけだけど。
俺が勝手に選んだ相手となんて、許してもらえるわけがない。花嶺の娘となんてなおさらだ。

あいつのことだって……。成績とかそういうことでしか勝てないって、俺はたぶんわかってたんだ。
本当は、羨ましかっただけなのに……!」


笠井進は両手の拳を握り泣くまいとしているようだった。こんな身勝手で強引な、お節介な、兄と同じ髪の色をした男の前では。

しかし零はそんな笠井を見て、突如両手を大きく広げ、がばりと抱きついた。


「な……!?」

「お前は立派な男だー!」


立て続けに、零は無遠慮に泣きだした。俺が代わりに泣いてやると言わんばかりの勢いだ。


「認めたくないことも認められて、憎い恋敵のことも理解しようとしてる。
お前は偉い! 立派だ! 成績がいいのは頑張った証拠だろ? 兄貴なんて年上なんだからな、そんな奴らは放っておけばいいんだよ!
その子のことはそうだ、お前がいつか結婚すべき相手と出会った時に、その相手を愛する練習をしたと思えばいいんだよ!」

「…………師匠ーーー!」


堪え切れなくなったのか、笠井は零にしがみついて泣き出した。今までの我慢を全部吐き出すように、泣く、泣く。


ふところの大きい金髪の庭師と彼の優しさに触れ心を溶かした猫かぶりの少年は、夕日と大輪の薔薇に見守られ、長い間抱き合っていた。






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