私立秀麗華美学園


「――そして、その一種異様な光景を一部始終見守って、俺は寮へ戻って来たというわけだ」


雄吾は口を閉じアイスティーに手を伸ばす。

午前中に「ほんのうたた寝」をした雄吾が図書館へ行き、素早く本を選び、挙動不審な笠井を尾行したところ、なぜか薔薇園では夕方になっていたという部分以外はとてもわかりやすい説明だった。


「一言一句正確にというわけにはいかんがな。大筋のところは伝わっただろう」

「ああ……」


驚きというか、衝撃だった。
笠井がそんな風に考えていたなんて思ってもみなかったし、彼には彼ならではの深い悩みがあったのに、必要以上に敵対視していた自分が馬鹿みたいだ。

それはお互い様だとしても、何の肩書もないだけに笠井の方が俺とは比べ物にならないほど辛く思っていたのかと思うと後悔の念すら湧いてくる。


「わからないものだな。笠井がそれほどまでにゆうかを好いていたということも、素直に述べた心境のことも。

やはり彼も学園に多くいる生徒と同じく、自らの身の上に苦しめられ、辛い思いを抱えている人間の1人だったということなのだな」

「だよなあ……。あいつも見栄っ張りというか、意地っ張りというか」


見栄にしろ意地にしろ、そんなものは張ったってどうしようもないものなのだということを、体験上、俺はよくよく知っている。


「素直って大事だな。あいつも零さんに対して素直になったからこそ、泣けたんだろうし」

「あの金髪の庭師のことも、すごい人間だと思ったな。俺は個人的に」


学園祭の日以来、学園内で彼と会うと、ほんの短い時間だが何かしら言葉を交わすということがよくあった。
それは俺に限ったことではなくて、零さんはこの短期間にも、びっくりするほど多くの生徒と交流をしていた。

ホストやってただけあるよな、とこっそり思う。さすがにそのことは、他の生徒たちには知らせていないようだった。
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