私立秀麗華美学園
「少しは歩み寄ってみてもいいかもしれないな、あの妙な言葉遣いの殿下に。少なくともお前には、そうする理由や価値が、少なからず在りそうだ」
「そーだなー。まだ半年ぐらい、クラスメイトでもあるしなあ」
だけど零さんとの会話のことを知らないフリをしたまま、俺が笠井に親しげに話しかけるというなどという行為の結果は、想像するだに恐ろしい。
まあ、向こうも多少なり態度は軟化してくる可能性もなくはないが。
ゆうかから不審に思われるということも避けたいが、さすがにさっきの話をゆうかにしてしまうわけにはいかないし。
「まあ、歩み寄り方にもいいろいろあるしな……ちょっとだけ意識して、新学期に臨むだけでも、十分だよな」
「そうだな。ところで話は変わるが、その出来事のあった、8月某日の話だ」
「ああ」
なぜか殿下が覚えてらっしゃった――たぶん、意識してたからだろうけど――というなら、それが思い違いでなければ、その日は8月1日だったはずだ。
俺の、17歳の誕生日。
ちなみに実家での盛大な祝いの様子は述べるまでもないと思うので省略。
とりあえず母さんは、ケーキの高さをせめてクロノリ3羽分よりは低くするべきだったと思う。結婚式じゃあるまいし。
「え、何かくれんの?」
「present for you」
さらっと言った雄吾が示した先は、俺の本棚だった。
「見るに耐えない隙間を埋めてみました」
最後に口の端にうっすらと笑みを浮かべ、雄吾は立ち上がってキッチンへ行った。
近づいてみると、本棚に確かにあったはずの隙間は激減し、そこには背表紙の高さごとにきっちり揃えられた大量の本があった。
「……どうも」
「エンタメ志向のお前には嬉しくはないだろうな。まあ、しのごの言わずに読め。時間をかけるに値するだけのものを集めてある」
並んでいたのは、伝記に哲学書に経済アナリストや経営学の専門家の著書、物語は夏目さん森さんあたりの時代のものが原文のまま記載されたものが少数だけだ。
「17歳おめでとう。殿下と活字に歩み寄るがいい。月城和人」
一番下の段にあった大辞泉をそろりとつつくと、どさりと大きな音を立てて本棚が震えた。
「そーだなー。まだ半年ぐらい、クラスメイトでもあるしなあ」
だけど零さんとの会話のことを知らないフリをしたまま、俺が笠井に親しげに話しかけるというなどという行為の結果は、想像するだに恐ろしい。
まあ、向こうも多少なり態度は軟化してくる可能性もなくはないが。
ゆうかから不審に思われるということも避けたいが、さすがにさっきの話をゆうかにしてしまうわけにはいかないし。
「まあ、歩み寄り方にもいいろいろあるしな……ちょっとだけ意識して、新学期に臨むだけでも、十分だよな」
「そうだな。ところで話は変わるが、その出来事のあった、8月某日の話だ」
「ああ」
なぜか殿下が覚えてらっしゃった――たぶん、意識してたからだろうけど――というなら、それが思い違いでなければ、その日は8月1日だったはずだ。
俺の、17歳の誕生日。
ちなみに実家での盛大な祝いの様子は述べるまでもないと思うので省略。
とりあえず母さんは、ケーキの高さをせめてクロノリ3羽分よりは低くするべきだったと思う。結婚式じゃあるまいし。
「え、何かくれんの?」
「present for you」
さらっと言った雄吾が示した先は、俺の本棚だった。
「見るに耐えない隙間を埋めてみました」
最後に口の端にうっすらと笑みを浮かべ、雄吾は立ち上がってキッチンへ行った。
近づいてみると、本棚に確かにあったはずの隙間は激減し、そこには背表紙の高さごとにきっちり揃えられた大量の本があった。
「……どうも」
「エンタメ志向のお前には嬉しくはないだろうな。まあ、しのごの言わずに読め。時間をかけるに値するだけのものを集めてある」
並んでいたのは、伝記に哲学書に経済アナリストや経営学の専門家の著書、物語は夏目さん森さんあたりの時代のものが原文のまま記載されたものが少数だけだ。
「17歳おめでとう。殿下と活字に歩み寄るがいい。月城和人」
一番下の段にあった大辞泉をそろりとつつくと、どさりと大きな音を立てて本棚が震えた。