私立秀麗華美学園
彼女の「突撃」の意味は、その日うちにわかった。

その時両家の父親同士は書斎にこもって仕事の話をしており、母親同士は出掛けていた。

広間で雄吾が夏期課題を広げたのを見て、小学生高学年中心の子供たちあたりから、勉強教えてコールが飛び交い始めたので、2人は要望に応えることとなった。


「雄吾、いっつも上位10位以内には入ってんねんでー」

「へええー! あの学園でそれって、めっちゃすごいやん!」

「姉ちゃんは?」

「第一中間では、頑張ったよな」


ではその次のテストでは、というと、和人と似たような報告をせざるを得ないのだが。


「雄吾くん、この問題教えて!」

「算数嫌いなのー!」

「作文ってどうやって書くの?」


子供たちはみんな雄吾に集中攻撃で、咲の方は見向きもしない。
さすがに小学校内容なら……とは思うものの、彼ら彼女らが通う学校の教育内容はそんじょそこらのものとは違うわけで、どんな問題にでも答えられる、というほどの自信は咲にはなかった。

拗ねるでもなく、テーブルの隅で大人しく自分の課題を広げた咲を見て雄吾は苦笑する。
一番雄吾の助けを必要としているのは咲なのだ。


何人もの子供に囲まれて方程式を教えている雄吾をぼーっと眺めていた咲は、急に部屋を見渡した。

すると、やはり隅の方で1人縮こまっている羽美の姿が目に入ったので、すり寄っていく。


「なー、羽美ちゃんは? 宿題やってる?」


またしても肩を震わせ、羽美は咲を見上げた。


「夏休みって長いから、あたしはいっつも、末になって……」

「終わった」


一言、小さな声で言うと、羽美はとことこと歩いて、部屋の反対側の隅に行ってしまった。


「終わっ……?」

「終わった!」


今度は語勢強く言い放ち、部屋の外へ駆け出してしまった。

呆気にとられた咲は、羽美が座っていたところへ、ぼんやりと突っ立っていた。
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