私立秀麗華美学園
「わっ……」


こぼれた水が、思い切り咲にかかった。

はっという表情をした羽美だが、一時逡巡したあと、逃げるようにドアに手をかけた。


「羽美!」


厳しい雄吾の声が飛ぶ。

羽美はドアの方を向いたまま肩をすくめた。

驚いてしりもちをついてしまった咲を立ち上がらせたあと、雄吾は羽美を振り向かせ、目の前に膝立ちになった。


「羽美、どうして謝らない?」


雄吾にまっすぐ見つめられて、羽美は俯き口を噤む。
両手はぎゅっと服の裾をつかんで、頬が少し赤くなっていた。


「咲に話しかけられても、無視をしたりしているようだし。今だって逃げるように。小さい頃は、よく一緒に遊んでいただろう? 何か咲に言いたいことでもあるのか?」

「……ない、です」

「それじゃあ、咲に謝るんだ。羽美は挨拶もできる、礼儀正しい良い子だっただろう?」


言われて羽美は、黙ったまま余計に俯いた。小さな唇をきゅっと噛みしめて、泣くのを堪えているようにも見える。

そんな羽美の様子を見た咲が思わず口を挟んだ。


「雄吾、別に、水がかかっただけなんやし……」

「そういう問題じゃないだろう」


雄吾の声色が一層険しくなり、咲でさえも口を噤まずにはいられなかった。
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