私立秀麗華美学園
見渡しても羽美の姿は見つからず、廊下で会った恭真と麻由に聞いても見ていないと言われる。

息を切らして走り回った挙句、咲は羽美の部屋の前に来た。
ドアに耳をつけると、すすり泣く声が聞こえる。


「羽美ちゃん」


ノックをしながら呼びかける。


「入ってもいい?」


返事がないので、ゆっくりとドアを開いた。

羽美は窓際のカーペットの上に丸まって座っており、咲が入ってきても顔を上げようともしなかった。

そっと近づいて咲は羽美の前にしゃがみ込んだ。


「羽美ちゃん、あたしは怒ってへんし、秘密にしたいことやったら、雄吾にも内緒にしとくから」


すすり泣いていた羽美が一瞬動きを止めて、顔を上げようか上げまいか、迷っている様子が見てとれた。


「やから、話してみーひん? 言いたいことあるんやろ? 何回か、口開こうとしてたもん」

「……ありません」

「そんな敬語もええから。子供は子供っぽく喋ったらいーやん。あたしやって子供やけどさ」

「だって、お兄様はそうしてたって」

「やからって羽美ちゃんもそうしなあかんなんて、誰かが言った?」


ちょっと考えて、羽美は首を振る。


「やろ? 羽美ちゃんは羽美ちゃんなんやからさ。なんでもええねんて。
ほんで、やっとあたしと口きいてくれたやん?」


羽美が顔を上げると、咲はにやっと笑っていた。なんだか悔しそうに口を尖らせながら、ぼそぼそと羽美は言葉を発する。


「……だって、ずるいんだもん」

「ずるい?」

「羽美の方が、お兄様のこと好きだもん」

「えー!?」


咲は驚いて目を見開いた。


「なんやー、やきもちー? やっぱり思春期や!」


はあ? という顔をして羽美が上目遣いに咲を睨む。


「一緒に来るって知らなくて、お兄様に会えるってだけ、思ってたのに」

「こんな邪魔者がついてきたから、機嫌悪うしてたんや?」


自分を指しながら咲が言うので、開き直った羽美は思いきりうなずいた。


「何それ、正直やな」

「だって、羽美が勉強してても、お兄様、全然気づいてくれないし。
お兄様に教えてもらおうと思ってたの、いっぱいあったのに」
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