私立秀麗華美学園
「初めまして。ヨハン・パルミーノと申します。
スペインからやって参りました。

こちらの学園のありがたき計らいにより、貴重な経験をする機会を得られたことを、嬉しく思っておる次第でございます。

どうぞ、よしなに」


見た目と発された言葉とのギャップに、教室中の生徒が静まり返った。

いわゆるブロンドの髪に碧眼、そんな彼から「よしなに」なんて言葉が出てくると、一体誰が思っただろうか。

あまりにぽかんとした様子の俺たちを見て、ヨハンは首を傾げた。


「何か、言葉を間違えてしまいましたでしょうか」

「いいえ、大丈夫よ。皆さん、大いに驚いていらっしゃるだけですから」


予想通りの反応だったらしく、榎木先生はふふ、と笑った。


「この通りヨハンは日本語が本当に達者です。
……たまに少し、変わった使い方を、してしまうこともあるようですが。

ですので差し当たり日常生活に支障はないでしょう。


高校2年生という、縛られない時間を多く持つあなたたちにとって本当によい機会だと思います。

ぜひぜひ仲良くして、お互い多くのことを学び合ってくださいませ」


榎木先生が言い終わると、「よろしくお願いします」とヨハンがもう一度お辞儀をして、教室からは拍手が上がった。


その後は漫画のように「席は、月城くんの隣が空いてるわね」なんてこともなく(教室に使われていない椅子と机が常備されていたら単純に邪魔だと思う)、始業式のため全員が体育館に移動を始めた。

さっそく、何人かの生徒がヨハンに話しかけているようだ。


「びっくりしましたね。だけど、彼……」

「うん。めちゃめちゃかっこいいよねー」

「すっごく背が高いし」


こそっと喋る、近くの席の女子たちの声も聞こえる。

確かにかっこいい。正直外国人って、ハリウッドスターとかでもあんまり見分け付かないけど。みんなかっこよく見えるんだよなあ。


「ぜひ、ぜひ、仲良くして頂きたいわね……」


何気なく呟いただけなのだろうけれど。
これはもしかすると、A組はしばらくの間戦場になるかもしれないな。

と、俺は人ごとのように思いながら、体育館に向かった。

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