私立秀麗華美学園
「どきどきするわ……座っているだけじゃ不自然ね。お弁当あけよう」


そういや俺弁当持ってねえや。笠井に引っ張られたまま来たから。


「あれ? カズトもしかして」

「どーせ弁当まで見えないだろうしいいよ、気にせず食べて。とりあえず楽しそうにしないと」


カルラは弁当を広げるだけ広げて、顔を俺の方に向けた。


「フォークだけ持っておくわ。ねえ、ヨハンの様子はどう?」

「んー……たぶん気づいてないな。会話してるっぽい」

カルラの方を向いたまま少し先に視線を飛ばす。なかなか難しいな。


「そう。カズト、何を話す?」

「じゃあ……カルラ、お花見って知ってる?」

「オハナミ……?」


ふと浮かんだのが英語Wの授業のテーマだったので、お花見を説明することにした。

人のことばっか気にしてないでそろそろちょっとは真面目にやらなきゃなあ……。


腹おどりの説明でカルラが笑い声をあげた時、視界の端でヨハンの頭が動いたのが見えた。


「あ、気づいたかも」

「えっ、本当?」


不自然に見えないようカルラはこっちを向いたままなので、ヨハンたちの動向を見ることができない。

カルラのひたいあたりを見ながら喋るふりをしてベンチの方を見る。ヨハンは何度かこちらに視線をやっていた。やはり気づいたようだ。


もう一度カルラに言おう、と思ったとき、ヨハンが驚きの行動を取った。


「それにしても、ユウカはなんでも知っているんだね!」


不自然極まりない大きさの声で、喋り始めたのだった。


「それに、毎日、いつ見ても綺麗だ!」


予想外のヨハンの反応に、カルラは思わずといった様子で振り返ってしまった。

……完全に目があったようである。


どうするのかと思っていると、カルラは向き直り、負けじと声を張った。


「カズトは優しいのね! 日本の男性ってみんなこうなのかしら? 頑固者でもないし!」


あてつけ以外の何物でもない。ヨハンは思いっきりカルラを睨んでいた。


「とても優しくて、シンシだわ!」

「ユウカは落ち着きがあって大人びているね! わがままも言わないし!」

「誰かとちがってカズトは一途で大人ね! 優しいからずっと一緒にいたいわ!」


子供だ。2人共なんつー子供加減だ。

中庭に響き渡るような大声での言い合い(?)はヒートアップしていくばかりだった。


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