私立秀麗華美学園
ヒートアップとは言っても俺とカルラが会うのは今日で3回目なわけで、そんな相手のことをいつまでも褒めていられるはずもなく、カルラのアピールポイントは8割方「カズトは優しい」「カズトは大人」だった。
ヨハンの方だって大して変わらない。


この2人も2人だが気になるのはゆうかのことだ。言い合いの最中、そっと顔をあげてベンチの方を見る。
ゆうかは、まっすぐ俺の方を見ていた。
いろんな意味でどきっとしてそのまま固まる。ゆうかは、2回、口を大きく開けたあと、目をそらした。

……「ば」「か」って、言ったんだろうな。たぶん。


ヨハンとカルラの状況に、驚いた様子はなかった。もしかして知ってたのか? だったらやっぱり俺がやった意味ねぇー……っていうかむしろ、逆効果なんじゃ……?


「ニホンの男の子はみんな好きだわ!」

「黒髪ほどすてきなものはないね!」


一方国民レベルに達している言い合い。気づけヨハン。ゆうかは黒髪じゃねえよ。


「ブシもニンジャも、みんなみんな、かっこいいわ!」

「僕はヤマトナデシコと結婚したいな!」


ついに結婚まで出てきたよ、と呆れているとそこでついにカルラが立ち上がった。


「もう、怒ったわ!」


応じるようにヨハンも立ち上がり、2人はつかつかと近づいて行く。


「だいたい、その女の子、どうしたの!? ヨハンはあの子が好きなの!?」

「カルラこそ、カズトと一緒にいるじゃないか!」

「わたしが先に聞いたのよ!」


正面きって言葉をぶつけあううちに、2人は思い出したようにスペイン語で喋り始め、俺には何がなんだかわからなくなってしまった。

当たり前だが2人は中庭中から注目を浴びていた。
この学園内であんな激しい口論は珍しいのだ。


俺には2人がやたらと巻き舌なことしかわからなかったが、ゆうかはある程度聞き取っているようだ。言い争う声が一段と大きくなった時、ゆうかはため息をついてから立ち上がった。


「ヨハン、そのぐらいにしておきなさいよ」


興奮冷めやらぬ2人がゆうかの方を向く。


「ユ、ユウカ」

「わかっちゃうよ、ヨハン。わたしとどこへ行く時も遠回りをしてC組を通るんだもの。食堂ではわざわざ混んだ席を選ぶと思ったら、後ろの方に彼女が座っていたし」

「い、いや、それは」


ヨハンの慌てた様子が見て取れる。
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