私立秀麗華美学園
「何もらったんだ?」

「……腕時計」


帰り道に英語のスピーチの優勝品を見せてもらうと、それはなんとかというブランドの最新モデルらしかった。

ブランドのことはよくわからんがさすがだ。奇抜な色の時計だった。


「景品あるってわかってたら、もっとみんな頑張ったかもしれないのに」

「いる?」

「え、いや、ゆうかのだろ、いいよ」

「そう? カルラにでもあげればよかったかしら。使わないのよね、腕時計」


最近の会話はずっとこんな調子だった。

至って普通、に見えて、なんとなく噛み合わないこともよくある。
お互いがお互いに隠して言っていないことがあるのがわかっているだけに、
何事もないかのように普通に会話をしているのが、つらい。


俺がゆうかを避けて、しかもそれを隠すために嘘をついた。

そう知った時のゆうかは怖かった。怒ればいいのに怒らなかった。

顔を歪めて、そんな顔をさせてしまったことは反省したいがあの時は何も言えなかった。何もわからなかったから。

だけどあの気づまりな会話以来、言葉にできることは、多くなった。


「咲」


夜、咲が俺たちの部屋にあそびに来ていた時、俺は口を開いた。


「なになに、どしたん」

「俺さ」

「うん」

「ゆうかのこと好きなんだ」


雄吾のベッドの上でごろごろしながら本をめくっていた咲はぴたりと動きを止めて俺を見た。


「……知ってるけど」

「めちゃめちゃ好きなんだ」

「はあ」

「前からそうだったけどさ」

「ふむ」

「前よりもっと好きなんだ」

「へえ」

「一周回ってメーター振り切ったぐらい好きなんだ」

「ほう」


俺をじーっと見つめたあと咲は起き上がって、反対を向いてベッドの端に座っている雄吾に飛びついて行った。
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