私立秀麗華美学園
*
「雄吾」
風呂場の方からシャワーの音が微かに聞こえてくると咲は言った。
「びっくりした何あれー。メーター振り切って一周回った?」
「確かにメーターの1つや2つ振り切らないと『今までより好き』とはいかないだろう……しかしだな」
雄吾は咲の隣に座り直し、膝に頬杖をついた。
「立ち止まりたくなったという例えは丁度あいつに当てはまる状態だと思うんだが、それは2人で歩んでいるという前提が必要だろうな」
「同じ方を向いて、同じ歩調で」
「そうだ。そしてそのためには――」
「ゆうかが和人に合わせる以外にないやんな。実際、最近のゆうかって……」
咲と雄吾はお互いの顔を見て言葉の続きを確かめた。
あの2人を一番近いところで、一番長い間、見守ってきたのだ。口に出さなくてもわかっている。
「それを、和人がうっすら感じてるってこと?」
「おそらく。それだけに怖くなったんじゃないかと思う。追い続けていればよかった今までとは違う」
「ゆうかがヨハンと2人でお昼食べてたん見たんが直接の原因なんやろ? ただの嫉妬じゃないんかな」
「それはそれで大ごとだ。嫉妬する権利などないと、卑下し続けてきた男だからな。
嫉妬と言えば、咲、2人の会話の中で、カルラと2人でわざわざ目の前に現れた和人に対してゆうかが妙なことを言ったと」
「ああ」
あの日、笠井と隠れて柱の陰から2人を見ていた咲は、場に居合わせなかった雄吾に事の詳細を説明していた。
「『なんで?』って言ったと思ったら和人が答える前に『やっぱりいい』って言い直したあれやろ?」
「その最初の問いかけは純粋な疑問というより、なぜ結果をわかっていてわざわざそんなことをしたのか、と責めているように聞こえるな」
「そうやね。ん? でも結果って……」
「自分が不快になるとわかっていながら、なぜカルラと共に現れたのか、と」
「……ってことは、ゆうか」
驚いた顔をする咲に雄吾はうなずく。
「ゆうかが『なんで?』の一言を引っ込めたのは、その言葉に、嫉妬のような感情の片鱗が、あったからだったんだ」
「雄吾」
風呂場の方からシャワーの音が微かに聞こえてくると咲は言った。
「びっくりした何あれー。メーター振り切って一周回った?」
「確かにメーターの1つや2つ振り切らないと『今までより好き』とはいかないだろう……しかしだな」
雄吾は咲の隣に座り直し、膝に頬杖をついた。
「立ち止まりたくなったという例えは丁度あいつに当てはまる状態だと思うんだが、それは2人で歩んでいるという前提が必要だろうな」
「同じ方を向いて、同じ歩調で」
「そうだ。そしてそのためには――」
「ゆうかが和人に合わせる以外にないやんな。実際、最近のゆうかって……」
咲と雄吾はお互いの顔を見て言葉の続きを確かめた。
あの2人を一番近いところで、一番長い間、見守ってきたのだ。口に出さなくてもわかっている。
「それを、和人がうっすら感じてるってこと?」
「おそらく。それだけに怖くなったんじゃないかと思う。追い続けていればよかった今までとは違う」
「ゆうかがヨハンと2人でお昼食べてたん見たんが直接の原因なんやろ? ただの嫉妬じゃないんかな」
「それはそれで大ごとだ。嫉妬する権利などないと、卑下し続けてきた男だからな。
嫉妬と言えば、咲、2人の会話の中で、カルラと2人でわざわざ目の前に現れた和人に対してゆうかが妙なことを言ったと」
「ああ」
あの日、笠井と隠れて柱の陰から2人を見ていた咲は、場に居合わせなかった雄吾に事の詳細を説明していた。
「『なんで?』って言ったと思ったら和人が答える前に『やっぱりいい』って言い直したあれやろ?」
「その最初の問いかけは純粋な疑問というより、なぜ結果をわかっていてわざわざそんなことをしたのか、と責めているように聞こえるな」
「そうやね。ん? でも結果って……」
「自分が不快になるとわかっていながら、なぜカルラと共に現れたのか、と」
「……ってことは、ゆうか」
驚いた顔をする咲に雄吾はうなずく。
「ゆうかが『なんで?』の一言を引っ込めたのは、その言葉に、嫉妬のような感情の片鱗が、あったからだったんだ」