私立秀麗華美学園
残りの試作も同じようにおこない、必要な材料の量を確認して、委員会にメニューを提出できることになった。

それから面倒だったのは、当日の使用教室や運搬の順路を他調理クラスや部活と相談する会議だった。

喋ったこともない人々の前で発言する苦痛。
パート長っつったら大体どこもはきはき明瞭に喋るやつばっかだし、女の子ばっかだし。


なんとかそれも終え、あとは本番までにもう一度計算をして材料を注文し、当日のシフトを決めさえすればよかった。


「なんとかなったな」


眼鏡をかけて電卓をたたきながら雄吾が言った。

めんどうな材料費の最終計算を手伝ってくれているのである。


「もっとわーわー泣きごとを言うかと思っていた」

「会議のたびに学校行きたくねーとか言ってたけどな」

「まあ愚痴の範疇だ。……数字、合わないな」


俺の計算結果と、雄吾の電卓に表示された金額を見る。数百円だが合っていない。
もう一回だ、と自分の電卓のクリアボタンを押す。


「今もそうだ」

「んー?」


手書きの汚い金額表とグラム表を交互に見て、ひとつずつ掛け算、足し算、を地道にやり直す。


「俺が任されたのは検算だけだ、な。正直、最初から投げてくるものだと思っていた」

「今までならそうしてた」


1人で考える前からややこしい、わからない、と、雄吾に電卓と表を差し出す自分の姿は簡単に思い浮かぶ。

だけどそれは甘えで、他力本願で、情けないやり方なんだと、そのことは何年も前からわかっていた。


やればできるかもしれないけどやらない。

その姿勢を正してみようと思うのに、これほど時間がかかってしまった。


「頑張ろうって決めたんだ。ゆうかに、もう一回好きっていうために」

「……まだ言うのか」

「言う。ずっと言う。
でもいつもいろんなことを頑張ってるゆうかに、今のままの俺で同じことを繰り返してても駄目だって思った。
好きになってもらいたいとかそういうんじゃないけど、これも、誠意のひとつかなって」


さっきとは別の新しい数字を叩き出した電卓を差し出す。

雄吾は「親離れされた気分だな」と呟いて、優しい顔で数字を眺めた。









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