私立秀麗華美学園
うーんと言い出しきれずにいると、槙野さんが椅子からおりてあたりを見回した。
当然、がっちりと目が合う。

内心おーっとぉと思いながらも冷静に立ち上がり、白々しく「手伝おうか?」と言った。言ってしまった。後には引けない。


「うん、お願い。届かなくって」


槙野さんは嬉しそうにプレートを手渡してきた。

届かなかったら空気凍るぞこれ。一世一代の大勝負。

俺は椅子に乗っかり、ふぅっと息をついてから、ぎゅんと腕を伸ばした。


「……お?」


思わず間の抜けた声が出る。届いた。意外と余裕だった。
そっか、腕の長さ分もあるもんな。なんかすげー勢いで腕あげちまった気がするけど、まあいいか。


「ありがとう! なんだか今、すごい気合い入れた?」

「いや、ちょっとぎりかなって思って」

「ああなるほど、気合い入れた甲斐あったね」


ほっとして椅子を降りる。と、槙野さんが隣に並んできた。


「んー……」

「な、何?」

「この間も思ったけど、月城くんって隣に並んでみると、イメージよりも背高いのね」


槙野さんは自分の頭の上に手をかざして俺との身長差を目算しているようだった。
イメージ内の俺ってどんなんなんだろう、と思っていると。


「とにかく、ありがとう」


上目遣いでにこっと笑われて瞬間的に、あ、この人可愛いな、と思った。

2秒後、目の形と口元がゆうかに似てるな、と認識する。


届いてよかったーと思いながら微笑み返した。「いーえ」と言って真二のところに戻ろうとした、その時。

手首を思いきりつかまれ、ものすごい力で引っ張られた。
転びそうになりながら教室の外へ走り出る。


前を向くとたなびくキャラメルブラウンの髪。

俺の腕をつかんでいるのは、ゆうかだった。
< 351 / 603 >

この作品をシェア

pagetop