私立秀麗華美学園
一瞬状況が理解できなかった。

だけど目の前にいるのはゆうかで、俺の腕は確かにつかまれ引っ張られているのだから、ゆうかが俺を教室から引っ張り出したことに間違いはなさそうだ。

黙ったままでゆうかは廊下を早歩きで猛然と突っ切っている、為すがまま俺もついていく。声をかけようにも何を言えばいいかわからない。


どこを目指しているのか、階段も1段とばしで降り、しばらくすると息を切らしたゆうかは昇降口で足を止めた。

だだっ広い、靴箱に囲まれた空間には人が多かった。何事かと俺たちに向けられた視線も少なくない。
ゆうかもそれに気付き、上履きのまま外にまで走り出て人気のないところで俺の腕を放した。


「……ゆ、ゆう、か……?」


背中を向けて俯いたゆうかは何も答えない。迷いながら正面に回り込む……と、ゆうかはぐるりとまたもや背中を向けてきた。
もう一度ずりずりと動く。ゆうかは背中を向ける。

しばらくぐるぐるとそれを繰り返し、俺はゆうかの顔を見ることを諦めた。


「ゆうか、なんで……」

「ごめん」


ごめん……?

それはどう考えても、あたりまえだけど、謝罪の言葉だった。何にだろう。混乱した頭で考えようとしたが無理な相談だった。何にだろう。なんでゆうかは、俺に謝ってる?


「ごめん、わたしもよく、わかんない」

「…………?」

「わかんないんだけど」

「……うん」

「明日、学園祭、一緒にまわるのやめよう」


まったくの予想外の言葉に、俺は舌をもつれさせた。


「な……え、な、ど、どういう……?」

「やめよう」

「それじゃあ、僕と一緒にまわる? 花嶺さん」


俺たちは同時に声の方を向いた。

昇降口から悠々と、微笑みながら出て来たのは、笠井だった。
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