私立秀麗華美学園
「え……?」

「君が騎士と、月城くんと一緒にいることを拒むなら、お誘いをかけるのは自由だよね? シフトの空きは合わせてあるよ。花嶺さん」


笠井はゆっくりと歩いてきた。ゆうかの表情はわからない。


「君と一緒に過ごしたい。どうかな?」


笠井はゆうかの片手を握って、自分の方に引き寄せた。

かっとなった俺が、離せと叫びかけた時だった。

ゆうかが振り向いた。

その不安そうな表情に、俺は落ち着きを取り戻した。
叫びじゃない。先に体が動いて、俺はゆうかのもう片方の腕をしっかりとつかんだ。


「だめだ」


ゆうかを通り越し、真正面から笠井の顔をにらみつける。


「ゆうかは俺の姫だ」


するりと出てきた言葉だった。
考える前に俺の舌は喋っていた。

そのことに気がついた瞬間、同じように俺をにらみつけてくる笠井の視線が、ふっと外され、ゆうかの方に向いた。


「ゆうか」


そう、名前を呼んで、笠井はゆうかの頬に触れた。


「4年前から、ずっと好きだった」


え――? と思った時にはゆうかの腕は放されていた。笑顔で、笠井はゆうかから離れる。


「返事は必要ないよ」


ひらりと手を振って、やつは校舎の方へ歩いていった。

その後ろ姿を目で追うゆうかを見て、俺はがっちりつかんでいた手を離した。だけどゆうかは動かなかった。立ちすくんで笠井が昇降口へと消えるのを見届け、それから俺には背中を向けたままで呟いた。


「……笠井は、気づいてたみたい」


何に、と聞き返すより先にゆうかの叫びが響き渡った。
< 353 / 603 >

この作品をシェア

pagetop