私立秀麗華美学園
「もーーー! 腹立つーーー!」

「……!?」


振り返って俺の方を向いた。
唇を噛みしめて悔しそうな表情をしている。


「何なのよ! わたしのこと避けといて! わたしには何も言わないくせに最近女の子とやたらめったら喋ってるし! それはパート長やってるからだって、わかってるんだけど!」


一気にまくしたて、ゆうかは一度息継ぎをした。


「わかってるんだけど、だってなんだか目につくんだもの! 腹立ったのよ! 悪い!? わたしは嫉妬してたのよ!」


思いもよらない発言を受け、俺は言葉を失う。
嫉妬? ゆうかが? 嫉妬?


「……えええええ!?」

「あーもう! なんだかいろいろ腹立ってももめたくなくって我慢してたけどやっぱりだめ! 腹立つー! さっきだって槙野さんのことかわいいって思ったでしょ! 見ててわかったんだから!」

「そ……」


ういえば、思ったんだった。見ていてわかるものなのか。


「あっ、でも確かについさっき、ゆうかが笠井のことかっこいいって思ったっぽいのは見ててわかった」

「お、思ったわよ! そりゃー顔はかっこいいし、だって笠井、そう、気づいてたもの。わたしが和人にいらいらしてるの」


……だからだったのか。だからだったのか! だから笠井は、俺とクラスの女子が会話するのを邪魔していたのか。
松本さんの時も、槙野さんの時も、試作に来ていたこと自体、それが目的で。


「全部わかってたみたい。だから、返事もいらないって言われちゃった」


落ち着いたらしいゆうかは体をひねって昇降口の方に視線をやった。
いつもの笑顔を張り付けた笠井が浮かぶ。


「……返事、しなくていいのか」

「どういう意味で言ってるの、それ」

「本当は行かないで欲しいけど」


言いながら俯いて、ぐっと顔を上げると、ゆうかは呆れたような表情をしていた。

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