私立秀麗華美学園
「とりあえず、わかった。和人がわたしを避けたこと、学園祭が終わったらきっちり話してもらうけど、もう怒ってない。
とにかくひとつ思ったの。わたしは和人に……少なくとも、嫌われたくないと、思ってるみたい」


ゆうかは俺の目を見て言った。
こういう時、ゆうかはいつもこうだったような気がした。真剣に伝えたいことがある時にはごまかしを使おうとはしないのだ。

真っ直ぐな性格も何もかも、やっぱり好きだと思った。


「そういう心配は実際まったくしてくれなくていいけど、そう思ってくれて嬉しい」

「もう、今の和人わたしが何言っても嬉しいとか言いそうで怖い」

「そうかも」


浮かれてるレベルだよなあと思った。嬉しい。


嫌われたくない、って。十分だった。十分すぎるぐらいだった。

信じられないほどいい流れだったけどそんなことを思う余裕もなかった。その先を期待するほどの余裕は。

だって、本当に、十分だったのだ。


「戻らないと。衝動で飛び出して来ちゃった。みんな困ってるわ……戻るの、恥ずかしいけど」

「じゃあ俺は後から戻るよ。特に仕事もなかったし」

「うん、じゃあ、そうして」


ちょっとだけきまり悪そうに俺をちらっと見て、ゆうかはくるりと背を向ける。

小走りで遠のく背中に、思いついて、声をかけた。


「ゆうか!」


その場でぱっと振り返る。


「学園祭、誰とまわる?」


悪戯心は誰に似たんだろう、と思う。

離れた場所でゆうかは口を尖らせた。ストレートには答えてやるものか、という顔。


「いちばんわたしと」


くるりとひるがえり、不満そうな顔だけを向けてゆうかは言う。


「一緒にまわりたいと思ってる人!」


べーっと舌を見せて、姫はクラスへ戻るべく走って行った。














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