私立秀麗華美学園
俺たちが心を砕いてつくりあげたA組の浴衣喫茶は大成功をおさめた。

クラスは大繁盛で、売り上げでいうと高等部では一番だった。調理パート長としてはこっそり咲と食べに来た雄吾に合格点をもらったので大満足だ。


クラスの出し物の時間が終わり後夜祭会場の大ホールへ向かう。最後のシフトに入っていたので教室にいたやつらと同時に出て歩いていると、斜め前にやつの背中を見つけた。

歩調をそろっと速めて隣に並ぶ。前を向いたまま「よう」とくぐもった声を出した。


「ご迷惑おかけしました」

「……くそ迷惑だったよ、本当に」


俺に気づいた笠井は同じく視線を前方に向けたままで喋る。


「ありがとう」

「気色悪いよ月城くん」

「ゆうかからだよ」


返事は要らないと言われた以上自分から接触するのははばかられると言ったゆうかに代わり、俺はこれを伝えに来た。


「返事のつもりかよ」

「どっちかっつーとここ数日の礼かなと」


俺が調理パート長になり女の子とよく関わるようになって、タイミング的なこともありゆうかはいらついていた。
それを和らげるというか、爆発を避けるためにこいつはふるまってくれていた。らしい。


「俺に感謝すべきはお前だろ。地面にめりこむぐらい頭下げて泣きむせべばいいよ、月城くん」

「だからその月城くんてのやめろよ」

「いやがらせだっつーの」


いつもと変わらない様子の笠井進。

感謝してねーわけねーだろ、と心で思い、そのまま呟く。

笠井の顔の逸らし方で伝わったことがわかった。

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