私立秀麗華美学園
「あきらめてやるよ」

「いいよ別に。やっと覚悟できたのに」

「もういいんだよ。1年前のことだって忘れればいい。いい加減お前らは2人のこととして考えろよ」


1対1の関係、という言葉を思い出した。本田とのやりとり。

11月も半ば、午後6時ともなるとあたりは暗くてうすら寒い中だった。


「お前はなんでゆうかだった?」


口をついて出た問いを笠井は相手にしないかと思ったが、即座に返事をした。


「知るかよ。理由があるなら俺が教えて欲しいっつの。気づいたら特別だった。そういうもんだろ」

「それはある意味、俺も同じだったけど」


気づいたら特別。姫だったから、というのは自分で選択した結果じゃないと思っていたが、案外、誰しもそうなのかもしれない。


「この婚約者制度、嘘みたいな関係だと思ってた。普通なら婚約は結果だけど、俺たちの婚約は原点だから」

「……じゃあ、結果出せばいいだけだろ」


はあ、とあからさまなため息をついて笠井は歩調を速めた。大ホールの入り口がもう見えている。


「どんだけいい奴なんだよ俺」

「笠井、ありがとう」


嘘から始まったとしても。
結果はその先にあるんだと。自分たちで作れるものなんだと。

本田はそれを実行できていたなあと思った。原点をぐちぐち言っても仕方がない。

今は過程だから、結果は今次第だ。


気味悪そうな表情で俺を見ていた笠井がホールの方へ視線をやった。

流れて行く人ごみの中、右手の入り口の傍に立っている姿があった。


「……姫がお待ちだよ、月城くん」

「それだけは慣れねーな……じゃあ、礼は言ったからな笠井くん」


苦笑いでゆうかの方へ足を向けた時、笠井の小さな声が聞こえた。


「進」


顔だけを向けて振り返る。


「進で、いい」


……進、は、左手の入り口の方へ足早に向かって行った。

















< 358 / 603 >

この作品をシェア

pagetop