私立秀麗華美学園
「あきらめてやるよ」
「いいよ別に。やっと覚悟できたのに」
「もういいんだよ。1年前のことだって忘れればいい。いい加減お前らは2人のこととして考えろよ」
1対1の関係、という言葉を思い出した。本田とのやりとり。
11月も半ば、午後6時ともなるとあたりは暗くてうすら寒い中だった。
「お前はなんでゆうかだった?」
口をついて出た問いを笠井は相手にしないかと思ったが、即座に返事をした。
「知るかよ。理由があるなら俺が教えて欲しいっつの。気づいたら特別だった。そういうもんだろ」
「それはある意味、俺も同じだったけど」
気づいたら特別。姫だったから、というのは自分で選択した結果じゃないと思っていたが、案外、誰しもそうなのかもしれない。
「この婚約者制度、嘘みたいな関係だと思ってた。普通なら婚約は結果だけど、俺たちの婚約は原点だから」
「……じゃあ、結果出せばいいだけだろ」
はあ、とあからさまなため息をついて笠井は歩調を速めた。大ホールの入り口がもう見えている。
「どんだけいい奴なんだよ俺」
「笠井、ありがとう」
嘘から始まったとしても。
結果はその先にあるんだと。自分たちで作れるものなんだと。
本田はそれを実行できていたなあと思った。原点をぐちぐち言っても仕方がない。
今は過程だから、結果は今次第だ。
気味悪そうな表情で俺を見ていた笠井がホールの方へ視線をやった。
流れて行く人ごみの中、右手の入り口の傍に立っている姿があった。
「……姫がお待ちだよ、月城くん」
「それだけは慣れねーな……じゃあ、礼は言ったからな笠井くん」
苦笑いでゆうかの方へ足を向けた時、笠井の小さな声が聞こえた。
「進」
顔だけを向けて振り返る。
「進で、いい」
……進、は、左手の入り口の方へ足早に向かって行った。
「いいよ別に。やっと覚悟できたのに」
「もういいんだよ。1年前のことだって忘れればいい。いい加減お前らは2人のこととして考えろよ」
1対1の関係、という言葉を思い出した。本田とのやりとり。
11月も半ば、午後6時ともなるとあたりは暗くてうすら寒い中だった。
「お前はなんでゆうかだった?」
口をついて出た問いを笠井は相手にしないかと思ったが、即座に返事をした。
「知るかよ。理由があるなら俺が教えて欲しいっつの。気づいたら特別だった。そういうもんだろ」
「それはある意味、俺も同じだったけど」
気づいたら特別。姫だったから、というのは自分で選択した結果じゃないと思っていたが、案外、誰しもそうなのかもしれない。
「この婚約者制度、嘘みたいな関係だと思ってた。普通なら婚約は結果だけど、俺たちの婚約は原点だから」
「……じゃあ、結果出せばいいだけだろ」
はあ、とあからさまなため息をついて笠井は歩調を速めた。大ホールの入り口がもう見えている。
「どんだけいい奴なんだよ俺」
「笠井、ありがとう」
嘘から始まったとしても。
結果はその先にあるんだと。自分たちで作れるものなんだと。
本田はそれを実行できていたなあと思った。原点をぐちぐち言っても仕方がない。
今は過程だから、結果は今次第だ。
気味悪そうな表情で俺を見ていた笠井がホールの方へ視線をやった。
流れて行く人ごみの中、右手の入り口の傍に立っている姿があった。
「……姫がお待ちだよ、月城くん」
「それだけは慣れねーな……じゃあ、礼は言ったからな笠井くん」
苦笑いでゆうかの方へ足を向けた時、笠井の小さな声が聞こえた。
「進」
顔だけを向けて振り返る。
「進で、いい」
……進、は、左手の入り口の方へ足早に向かって行った。