私立秀麗華美学園
「それで企業が様々な分野において秀でた人材を集めてるって話だったわね。DNAを研究し、完璧な遺伝子を作り出すプロジェクト。だから」


ゆうかはまた笑みを浮かべ、堂本に接近した。


「どんな特技をお持ちなのか伺ったのよ。お答え頂けるかしら」

「そこまでばれていちゃ、仕方ないですね……」


堂本は息を吐き出して、ぼそぼそと話し始めた。


「特技というか、僕が認められた能力は、複雑な数式の読み解きです。

昔から数学だけは得意教科でした。そんな情報がどこから流れたのかはわかりませんが、僕は中学3年の時、無理やりここへ転校させられたんです。

そして戸籍上、養子ということになりました。母子家庭だった僕の家は裕福でなかったので、逆らえば何をされるかわかったものではなく、従うしかありませんでした」

「そんなことが……」


権力による脅迫は、やはり実在するものなんだと気づかされた瞬間だった。


「でも、ただ名字が変わっただけです。
母は元の名前と堂本の2つ、家に表札を付けてくれています。それだけで暮らしを保障されているんですから、現状に不満があるというわけではないです。
僕も、好きな数学をやらせてもらっていますし……」

「そういう問題じゃないわ!」


ゆうかの怒声が響き、堂本は体を一層縮めた。


「そんなこと、許されていいわけない。人権侵害よ。そんな……」

「ゆうか」


たしなめるような雄吾の声。


「……わかってる」


それを聞いて、ゆうかは腕組みをといた。

少しむっとする俺と咲。
しかしそれは頭の回転のスピードの違いによる理解力の差なので、口に出せないのが悔しい。


「言っても仕方のないことはわかってる。そうよね。でも許せない。他にも同じような例があるんでしょうね」

「そうみたいですね。プロジェクトの大元の企業は僕も知らされていません」


随分コンパクトになった堂本を雄吾が帰るように促し、堂本はへこへこお辞儀をしながら教室の方へ歩いて行った。
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