私立秀麗華美学園
「……まじかー……」


いつまでも鳴り止まない雄吾の目覚ましで目が覚めた。

隣のベッドを見るとにょきっと手が伸びていて、目覚まし時計は落下していた。慌てて拾い上げて雄吾を覗き込もうとすると布団にくるまっている。

どうかしたのかと聞くと、小声で「体温計」と言われたので黙って取りに行く。

ぴぴぴ、と鳴ったのを聞いてすかさず奪い取ると、37度6分ということだった。


「熱あんじゃん。昨日そんなに具合悪かったのかよ、ポーカーフェイスも困ったもんだなあ」

「……返せ」


体温計に伸びてきた震える手をさっとかわすと雄吾はぎろりと睨んで来たが、布団で半分隠れた薄ら赤い顔ではこわさも半減だった。


「7度6分だったよ。雄吾は平熱低いから立派な熱」

「……何かの間違いだ」

「見るからに風邪っぴきのくせに」


べちんとでこに手をあてると明らかに熱かった。雄吾の方では俺の手を冷たく感じたのだろう、悔しそうな顔をした。


「雄吾が風邪なんて何年ぶりだろうな」


もともと几帳面な完璧主義者で自分の体調管理など当たり前という顔をしているので健康おたくも当然のようだが、幼い頃雄吾はよく風邪をひく方だった。
対照的に咲はほとんど皆勤賞だったからちょっと気にしていたのかもしれない。体調の悪い雄吾を見るのは、4、5年ぶりぐらいだ。


「……不覚」

「何が不覚だよどんだけ気いつけててもたまにはあるよ風邪ぐらい」

「だが今日に限って……」

「ああテスト期間な、別に授業受けなくても大丈夫だろ雄吾なら」


雄吾は不服そうな顔をしたが何も言わない。それより俺は学校の準備だ。まだ、いつも雄吾が起き出して朝飯を作り始めてくれる時刻なので時間はある。


「めし……雄吾の分、食堂から何かとってくるか?」

「いらない。喉を通りそうにない」

「じゃああとで、飲み物だけもらってくる」


着替えて食堂に走る。飲み物と自分の朝飯を持って部屋に戻ると雄吾は布団にくるまって寝ていた。

体調を崩したら医務室に連絡だ。部屋からかけると雄吾が止めてきそうなので直接知らせに行くことにする。今は寝ていると伝えると、昼前に様子を見に来てくれるとのことだった。


あとは……うーん、思いつかないな。ああ、咲に知らせないと。

盛り上がった布団のかたまりを見て、俺は部屋を出た。
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