私立秀麗華美学園
「えっ、雄吾がぁ!?」


俺はゆうかと合流してから咲が待っているはずの場所へ向かった。


「久しぶりね。昔は結構あったものだけど」

「だっ、だっ、大丈夫なん!?」

「熱は7度6分だった。なんかすっげー悔しそうだったし弱ってる感じではなかったな」

「ただの風邪なら大丈夫よ。普段あれだけ体大事にしてるんだし」

「えー、でもー、……学校休もうかな」

「テスト前だぞ」

「そうよ、大体授業休んで男子寮でうろちょろしてるとこ、見つかったら大変よ」

「でもでもでもー!」


ぐずる咲を引きずるようにゆうかは歩き出した。医務室にも連絡したから、となんとか説得する。

しょぼん、としおれた感じの咲は見た目、雄吾よりも病人みたいに見えた。


「16歳が風邪ぐらいでめそめそすんなよ」

「17だけどね。咲、この間誕生日」

「16でも17でも20でも80でも、心配は心配やろー! 和人だってゆうかが風邪引いたらぜったいめそめそするくせに!」

「それはするけど、学校は行く」


他人事やと思って、とかなんとかぶちぶち呟きながら咲は後をついてきた。

他人事ではないが死ぬわけでもあるまいし、とドライなことを思う。
たぶん咲は風邪を引いた経験がないこともあって、体調不良の程度にあまり区別がついていない。鼻風邪もインフルエンザも同じ「風邪」なのだろう。


「帰ったらお見舞い。大丈夫よ。雄吾に心配されないように、ちゃんと勉強することね」


聞き分けの悪い子供をさとす母親のようによしよしと咲の頭を撫でるゆうか。
いつも通りの、見慣れた光景だけど嬉しく思う。


「……何?」

「別に?」


ちょっと笑った顔のまま、俺は前を向いてスクールバックを肩に担いだ。

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