私立秀麗華美学園
放課後、ゆうかと教室を出る時にC組に寄るかと言ってみたが、とっとと帰ってるだろうということで寄らずに学校を出た。


「じゃ、着替えてから行くね。既に咲はお騒がせしてるだろうけど」

「うん」


ハート寮の階段をのぼるゆうかの背中が見えなくなってから自分の階段をのぼる。

学園の建物内はどこもかしこも空調がきいていて、特に冬は湿度管理もされていたが、それでも廊下はやはりひやりとしていた。てすりをつかんでみるとちゃんと冷たい。

12月だもんな、と思いながら息を吐いてみるが白くはならない。暑いとか寒いとか、俺たちが不快を感じるのは寮と学校の間の10数分の道のりでだけだ。
白い息や、裸の木立と強い風に舞い上がる茶色い枯れ葉を見るのも。外の部活に入っていなければみんなそんなものだろう。あとは外出許可を取って街に行く時ぐらいなものだ。

そんな、貴重と言える時間を俺は毎日ゆうかと過ごしてるんだなと思った。雄吾は咲と。

きっと俺と雄吾をとってみても、通う道は一緒だが、見ている景色は違うんだろう。


部屋のドアを開けてみるとやっぱり咲がベッドのところにひざまずいていた。


「だろうとは思ってたけど、やっぱり直で来たんだな」


ほっぽり出されたかばんを拾ってベッドの横に置く。俺が近づくと雄吾は薄く目を開けた。


「大丈夫かー?」

「……ああ」

「薬飲んだから今は熱下がってんねんて。お医者さんもただの風邪やって。朝から飲み物とゼリーぐらいしか食べてないって」

「そっか。よかったな」

「学園祭でちょっと忙しかったしなあ、終わってから疲れ溜まってきてたんかなあ。やのに和人の勉強も見なあかんで……」

「俺のせいかよ。つーかお前コートぐらい脱げよ、手洗ったのか?」


咲が黙ってコートとマフラーを投げつけてきたので受け取って椅子にかける。洗面所で手を洗って戻ると雄吾は上半身を起こしていた。


「あ、そっか、食べてないんだったら腹減った? 食欲あるか?」

「……おもしろいな」

「は?」


的外れな返事に首を傾げると寄り添った咲もにまっと笑って俺を見た。

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