私立秀麗華美学園
結局ゆうかは根負けしてキッチンに立った。咲は制服だったので着替えにいったん部屋へ戻る。


「どうせだから全員分の夕飯作る?」

「……そんなさらっと提案しないでよ。わかってると思うけどわたしにとって料理をするっていうのは、かなりの一大事なんだから」


ちょっと恥ずかしそうにゆうかはぶつぶつ言う。

もともとゆうかが料理をしない(からできない)のは、小さい頃に無理矢理習わされたせいだった。
大和撫子たるもの、と、もちろん淳三郎氏の意向である。初めっからかなり本格的な和食の先生に来てもらっていた。

それまでにも華道に茶道に書道に着付けと様々な習い事をゆうかは毎日不平をもらしながらもやっていた。
しかしこの時ゆうかは小学5年生で反抗期盛り。今までの我慢も積もり積もって、ついに習い事をほっぽり出したのだった。


「あの時やめなきゃよかったって思ってる?」

「ストレスでどうにかなりそうだったからそうでもないわ。中学で習い直せばよかったとは思わないでもないけど、いいの、料理人だけはたくさん雇うの」

「そりゃ困ることはないだろうけど」


咲みたいな動機で料理をしたくなるなんてことも考えにくいし、確かに必要ではないのかもなあ。
前に言ってたように、自慢できなきゃ意味ない類のものだ。


「そういえば一度だけ、和人に料理したことあったね」

「ああ、あれもおかゆだ」


中学の時。今の雄吾みたいに風邪で伏せってた時だったから、余計に感動したものだ。でもあれ、あとから考えてみたら……うん。


「あの時のおかゆ、妙に完ぺきだったんだけど」

「……いつか言おうと思ってたけど、あれわたし、お米といで梅干しのせただけなのよね。水加減とか味付けとか、全部雄吾」


長年ひっそり思っていたことが当たったので大笑いした。ゆうかは苦笑いで目をそらしている。

大部分を雄吾が請け負っていたとしたって、あの時の感動は変わらない。それはそれは嬉しかった。料理がというより、ゆうかが自分のために何かしてくれたというそれだけで、嬉しかった。
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