私立秀麗華美学園
しかし感傷に浸る暇もなく咲の質問攻撃だ。


「ちょ、水こんでいいん?」

「知らねえよー。水加減なんか一番わかんねえもん」

「ていうか何それ和人、大根は包丁でくるくる剥くんじゃないん!」

「かつら剥きね」

「あんなんできねーよ! ピーラーでも剥けりゃいいだろ」

「ねえそれより水、少なかったら焦げるんじゃないの?」

「多かったらべちゃべちゃなってまずそうやん」

「食えねえよりマシじゃん」


俺の無責任な言い方に文句を垂れながらも咲は水を足して火にかけた。

この会話、雄吾は聞いているんだろうか。怖くてベッドの方を見れなかった。


「味噌汁の大根ってどんな形してたっけ」

「食堂のは丸の4分の1やけど、雄吾のは長方形!」

「いちょう切りとたんざく切り」

「……用語は完璧なんだよな」

「不本意ながら身についちゃった知識よ」

「え、でもこの円柱状からどうやって長方形にするんだ?」

「…………さあ……?」


大根は消去法でいちょう切りになり、切っている途中で鍋が沸いたので味噌を投入することになった。


「これ一番大事なとこちゃう? 味付け」

「まあ薄かったら追加すればいいし、濃かったら水増やせばいいのよ」

「味噌汁大量生産の予感」


基本的にびびりな俺は味噌を根気良くほんのちょっとずつ足していくことで事なきを得たが、納得いく味になるまで20分を要した。

その間にゆうかは炊飯器の準備を終えていた。これは数字通りにやればいいので問題なかったようだ。そして冷蔵庫から無造作に野菜を取り出し……ちぎり始めた。

包丁使うよりいいかー、と思って何も言わない。親の気分だ。
葉物はいいとしてピーマンは? と思ったら揺るがず手で裂き始めた。不恰好だけど一生懸命なサラダ的なものがが少しづつ形になりはじめる。


「ゆうかあー、おかゆにならん」

「ええー、火、弱いんじゃない?」

「ほんま? じゃあ強くしてみよ」

「とりあえずおまえ木杓子でも持てよ、ほら、これで混ぜる」

「おお、料理っぽい!」

ぐるぐるぐるぐるかき回す咲。あんだけ混ぜりゃ焦げねえだろ。
味噌汁はたぶんできたし、手持ち無沙汰になったので冷凍の魚を取り出した。


「焼いちゃっていいか?」

「どーぞどーぞー!」


グリルに突っ込んで控え目につまみを回す。
顔を上げるとゆうかのサラダもとい千切り野菜の盛り合わせが完成していた。
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