私立秀麗華美学園
洗い物は食器洗い洗浄機に任せて俺たちもベッドの周りに座って落ち着いた。


「うわ、もう8時半過ぎてるじゃない」

「ほんとだ。どんだけ時間かかってんだよ」


雄吾もしんどそうな表情ではなく、この分だと明日には学校に行けそうだなと思った。


「今朝、随分悔しがってたよな雄吾」

「普段どれだけ健康に気を遣っていると思っている」

「自分の身体に恩を仇で返されたってとこね」

「そういやC組、なんか大事な授業でもあったのか? 雄吾、今日に限ってって言ってたけど」

「今日? 別に? でも今日はいつもよりずっと真面目にノートとっといたから安心して!」


咲の笑顔に雄吾の頬がふっと緩む。優しい顔だ。雄吾がこんな顔をするようになったのはいつからだっただろう。


「そういえば、勉強しなくていいの? 2人共」

「今日は休むー明日から頑張るー」

「俺は咲が帰ったらにするよ」

「えっ、帰んの?」

「えっ、じゃないわよお泊りなんてふざけたこと言い出したらわたしが首根っこ捕まえて引っ張って帰ってあげるわよ」


威勢のいいゆうかに咲がぶーぶー文句を垂れる。首根っこ捕まえてって表現は大袈裟じゃない。前例もある。
それをふまえるとゆうかは最近怒っている時が少なくなったなあと思った。

咲の無意味な反論を聞きながら、ゆうがが落ち着いた声で切り出した。


「そうだ、部屋で4人そろうなんてなかなかないし」


抵抗をやめて、咲もなになに、と身を乗り出す。


「ほらあの例のプロジェクトの話。わたしと和人が、大変な単語聞いちゃったって話はしたわよね」


クローン。
その一言が、自分たちの親の口から発せられるのを俺たちは聞いてしまった。


「なんかわかったん?」

「新聞に目光らせたりはしてたけどやっぱり表沙汰にはなってないわね。でもほら、部屋に昨日、咲宛の小包み届いたでしょ?」


学園の生徒個人宛の郵便物は一旦寮の方で集荷され、簡単なチェックを受けてから部屋に届くことになっている。


「あーあれ……まだちゃんと見てないけど」

「机に広げてたもんねいろいろ。その中に社報があったのよ。風來のとこの。時々もらってるやつ」


親の会社の社報が届くのは珍しいことじゃなかった。関わりはなくとも、現状を把握しておくのに役立つ。

咲の場合、それを読むとなると珍しいことだったけれど。
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