私立秀麗華美学園
「誰だろう」


立ち上がろうとした途端、雄吾のかぶっていた布団がばさっと覆いかぶさってきた。


「……!?」

「雄吾?」


重たい羽根布団をのけると、雄吾が扉の方に直進しているところだった。さっきまでおかゆを食べていた病人とは思えないほどのスピードで向かっている。


「どっ、どうしたん? 何なんあれ?」

「さあ…………?」


あっけにとられている俺たちには目もくれず、雄吾は扉の所でノックの主と話をしていた。

事が突然すぎて、ゆうかも咲も俺もどう反応していいかわからない。それきり何も言わずにベッドの傍で雄吾の帰りを大人しく待っていた。


やがて用が済んだらしく、扉の向こうの相手が深々とお辞儀をして去って行く。態度からしてコンシェルジュのように見えたが。

後ろ手で扉を閉めた雄吾は、きまずそうに俺たちの方を見た。


「だ、誰だったんだ?」

「……コンシェルジュ。郵便だ」


なるほど、時刻は21時前。集荷された郵便物が個々の部屋に届く、最終の時刻だった。


「それで、雄吾宛てやったん?」

「ああ……いや、俺宛てというか、なんというか……」


珍しく曖昧な物言いをする雄吾を俺たちは奇異の目で見つめた。そんなわけないけど、解熱剤の副作用だろうか、と考えてみたりする。

しばらくして、咲や俺と同じように目をぱちくりさせていたゆうかが、「ああ」と呟いた。


「もしかして、あれ?」


返事はなかったが、雄吾が後ろ手に持っているものがゆうかの言う「あれ」であることに間違いはないようだった。


「なるほどね。外す?」

「…………いや、いい」


目の前で繰り広げられる謎の会話に咲と俺はいよいよ困惑した。なぜゆうかが事情を知っているのか。しんどそうな雄吾が頑なに見せようとしない郵便物は一体なんなのか。


「咲、来てくれ」

「え? う、うん」


扉近くに立ったままの雄吾のところへ、心底不思議そうな表情をした咲は歩いて行った。
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