私立秀麗華美学園
隣のゆうかを見てみると、へえ、と感心したような表情をしていた。

咲を目の前に雄吾は薄く口を開いた。


「おめでとう」

「……? 何が?」

「……誕生日、おめでとう」


誕生日。謎は深まるばかりだ。
なぜなら、咲の誕生日は先週に終わっている。当日俺が図書館で4時間ほど暇を潰している間、咲はこの部屋に来て雄吾に手料理をふるまってもらったはずだ。プレゼントは、初めてアクセサリーを贈ったと言っていた。

それなのになぜ、今更?


「ど、どういうこと?」


雄吾は黙って身体の後ろに隠していたものを差し出した。

それは、見事な鉢植えだった。
黄色とオレンジ色の小さな花が綺麗に並んで、小さな鉢からこぼれんばかりに咲いている。隙間から見える緑も計算され尽くしたかのような配置だ。
花の鮮やかさに対して鉢の色は地味な色だが凝った造りで、黄みがかったピンクのリボンが織り込まれたようになっている。

小さいながらも、プレゼントにはもってこいの華やかさだった。


「遅ればせながら」

「あ、あたしに? だってもうくれたやんこの間!」

「あれはあれで。一緒に贈るつもりが間に合わなかった」


咲は鉢植えを両手で受け取り、やがて笑顔になった。そうさせるだけの美しさとかパワーみたいなものが、そのプレゼントにはあった。


「ありがとう。なんの花?」

「プリムラジュリアンというらしい…………花言葉が、あってな」


雄吾の視線がちらりとこちらに送られる。ゆうかが、共犯者めいた笑みをもらした。


「知ってたんだ」

「うん。何がいいだろうって相談されたの」


なんでも自分で決めてしまう雄吾が、気合いを入れて選んだ花言葉。少しためらうそぶりを見せてから口を開いた。


「プリムラジュリアンの花言葉は、無言の愛だ」
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