私立秀麗華美学園
「俺は言葉足らずなんだと思う。咲は理解してくれてはいるが、それに甘んじているのはよくないと思ってな」

「無言の、愛……」


だんだん、ここにいていいんだろうかという気分になってきた。いや俺の部屋なんだけど。

しかしゆうかの言っていた「外す?」を思い出した。席を外した方がいいかという質問に対して雄吾は構わないと答えていた。それも、覚悟なんだろうか。


「口数の少ない俺はこれから先、おまえを不安にさせることもあるかもしれない。
だからこれを機会に言っておく。
いつも思っていることだと思って聞いて欲しい。
俺は咲を愛している。
……あと、今日のおかゆもうまかった。咲が、作ってくれたから」


あまりにも真っ直ぐなその言葉と眼差しに、咲はみるみる泣き出した。

鉢植えを机に置いて両手をあけ、思う存分雄吾に飛びついて行く。


「あたしも、あたしも……!」


泣きじゃくる咲の頭を撫でる雄吾は顔が赤い。熱のせいなんかではないだろう。

1年前なら考えられなかった光景だと思う。というか普通なら、他人のこんな場面を目の前にする機会などそうそうあるものではない。


「……あーもう、こっちが見てられない」


ついにゆうかが引きつった半笑いで2人に背を向けた。俺もそれにならう。


「俺たちの存在忘れてるな」

「ほーんと。いつからあんな雰囲気に。恥ずかしいったらありゃしない」


言いつつもゆうかの口元には笑みが浮かんでいる。

これが全くの他人であれば馬鹿っぷるだと一蹴できるが、咲と雄吾のこととなると話は別、となるのが俺たちだ。友達だ。


「こりゃ無理だな今日は勉強」

「咲はね」

「この空気で勉強できるほど強靭な精神持ってませんよ」

「部屋出ましょうよ、どっちにしても」


ゆうかの邪魔者どっか行けセンサーも発動していたらしい。
雄吾の「覚悟」にしたっておそらくさっきの言葉までだろう。聞き届けたら、もうここにとどまる必要はない。……俺の部屋だけど。


いよいよ距離の縮まった2人を尻目に俺は勉強道具をまとめ、ゆうかと一緒にそっと部屋を出た。
< 376 / 603 >

この作品をシェア

pagetop