私立秀麗華美学園
廊下は部屋よりも気温がだいぶ低かった。窓を叩く冷たい風の音もする。


「冬ねえ」

「12月だからな」


今年もあと数十日。クリスマスに正月に、また人付き合いのめんどうな時期が近くなってきたなあと思う。


「あー、それにしてもびっくりした」

「ゆうか、知ってたんじゃなかったの?」

「花言葉のこととかで協力してたし、贈るつもりで注文してた花の到着が遅れてたのを知ってはいたけど、風邪のことですっかり忘れてたから。
生花だから今日来ちゃっても受け取らざるを得なかったのね」

「やっぱり”無言の愛”を教えたのはゆうかか」

「あんな形で利用するつもりとは知らなかったけど」

「しかも人の目の前でぬけぬけと」

「……一大決心、見せたかったのかな」


俺に?
だとしたら、あれか、さっさと腹決めろってことか?
風邪のせいで投げやりになってる部分もなかったとは言えないかもしれないな。
治ってからまた「不覚」なんて言ってたらからかってやろうと思った。


「料理に対する反応がやたら薄かったのもそのせいかな」

「ああ、内心そわそわしてたのかもね」

「心ここにあらずの珍しい雄吾だったのか」


お互いの寮への出入りは原則10時までとなっているため俺たちはダイニングホールへ向かった。

ホールは食堂のちょうど真上に位置していて、男子寮と女子寮のちょうど真ん中にある。
ソファーとテーブルの対が何脚もあり、飲み物も充実していて、自由にくつろげる場所だ。パーテーションで仕切られた個室もあってテーブルゲームができたり、手持ちのパソコンが使えるような環境も完備されている。


テスト前であることだし人が多いかなと思っていたが、入ってみればどちらかというと閑散としていた。


「人、少ないな」

「自習室の方が混んでるかな。大イベント後の学期末だしみんな気合い入れてるかもよ。頑張んなきゃ」


ホールの奥、巨大な暖炉のあるところに荷物を置いた。1人掛けのソファーを2つ、テーブルの角を挟むように並べる。

部屋にはもちろん空調が効いているが、この、学園創立当時からあったという豪奢な暖炉は冬になるといつでも火を燃やしていた。
刻一刻と形を変えながら燃え続けるオレンジ色の炎は見ているだけでも温かく感じるものだ。
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