私立秀麗華美学園
メインホールに入場する時はペアで一緒にという暗黙の了解があるため、ハート寮とスペード寮の共有スペースや建物の正面は待ち合わせの生徒でいっぱいになる。

玄関ホールで姫と待ち合わせていた俺は部屋を出たところで雄吾と別れた。
今日ばっかりは、4人で、というわけにもいかない。


「兄ちゃんたち着いたって?」

「ええ。既に3人共に入場されているようです。お付きも都合がついたようで」


みのるには今日、付き人としてずっと一緒にいてもらうことになる。中等部から毎年のことで5年目だ。
俺のように決まった付き人がいる人もいれば、なかなか適切な人材を見つけられなかったり、反りが合わなかったり。パーティーの時にだけ雇うという例もあるらしい。

ゆうかの方はというと、俺と同じようにお馴染みの付き人がいる。みのるほど長くはないが、この大集会に連れ添って出席するのは同じく五度目で、花嶺の家へ行けば必ず顔を合わせるので俺もよく見知っている。


玄関ホールはきらびやかな衣装と適度な緊張をまとった生徒でごった返していた。
毒々しいまでにカラフルな装いがホールの照明を照り返しており、もう日の落ちた外の様子が窓越しにはっきりわかる。

目印の観葉植物の横に立ち、時刻を確認していると、お待ちかねの人物たちはやってきた。


「お待たせ致しました。お久しゅうございます、和人ぼっちゃま」


人ごみをかき分けるようにしてゆうかを先導してきた付き人の名前は、真理子さんだ。
センター分けで肩までのワンレン、細面で華奢だが、はきはきとした口調での淀みない物言いは付き人として申し分ない。一番の特徴は細い銀縁の分厚い眼鏡だ。俺は彼女がそれを外しているところを、一度も見たことがない。


「お久しぶりで、す……」


黒で統一されたスーツ姿の真理子さんに続いて現れたゆうかの出で立ちに目を奪われた俺の言葉は途切れた。

形は至ってシンプルな七分袖のワンピースだ。裾と袖の切り口がアシンメトリーで、そこについたフリンジが不規則に揺れている。
驚くべきは、色だった。見覚えがあるどころではない。
ゆうかの着ている、膝丈のワンピースの生地は、えんじ色をしている。


「……え!? そ、それ、色……えええ!?」


ゆうかも気付いたらしく俺の衣装と自分のドレスの間で視線を何度も行き来させていた。
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