私立秀麗華美学園
入り口はやはり人で溢れていた。
正面入り口から入るのは俺たちだけで、付き人は裏口とも呼ぶべき目立たないところから入場するため、それぞれ上着を手渡すゆうかと俺の物言いたげな視線をかわして、みのると真理子さんは横手へまわって行った。


とりあえず、入場時には邪念は追い払わなければならない。
正面入り口は狭く開かれており、1人もしくは2人ずつしか進めないようになっている。
既にホール内にいる人から見れば、入場してくる生徒1人1人をじっくり観察できるようになっているというわけだ。

姫と騎士、一対一の関係を結んでいる家同士の関係はどのようであるか。
跡取り息子の面構えは、年頃の令嬢の身のこなしは。

会場の空気に馴染むまでの数秒間は、自由に呼吸もできやしない。


「どんな目で見られるんでしょうね、この状態」


列をなす流れに加わりながらゆうかが呟く。


「たまげるだろうな。どう見たってお揃いだ」


俺たちの微妙な距離感を見知っているのは同じ生徒で、日々の振る舞いから各々感じたことを子供から伝えられることでしか、大人はそれを把握することができない。
さすがに姫と騎士同士の関係がそのまま、例えば月城と花嶺の関係に直結するとまで考えるお偉方はいないだろうが、イメージとしてそれは受け取られている。

少なくとも俺たちに、わざわざ衣装を揃えであつらえてまで関係を強調するような印象を持っている人は、いないはずだ。


「家のことだけ考えれば、問題ございませんけどね」


ゆうかの意味深な一言と同時に、目も眩むように光った入り口が迫る。
隣で居ずまいを正す気配がして、俺も背筋を伸ばし唇を引き結んだ。

歩調を揃えた俺たちは、光の口に同時に飲み込まれる。

12月の屋外と人混みの巨大ホールでは、明るさも気温も騒々しさも違う。
必死に目を慣れさせている間にも、感じる視線。注意が自分たちに注がれる気配。
人々の意識はまさに突き刺さってきた。包まれるなんてものではない。光と色と音の洪水も俺たちの足元を襲う。

ゆうかとの距離を一定に保ちながら身体に刺さる意識の棘を意にも介さない風を装うのは、至難の技だった。


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