私立秀麗華美学園
「そうだそうだ。入籍、おめでとうございます」


あえて、那美さんの方だけを向いて頭を下げた。
ありがとう、と驚くほど柔らかい声に顔を上げると、嬉しそうな表情と目が合った。


「年内に果たせてよかったわ。……果たしてくれて、だけどね」


つまり、やっとはっきりプロポーズをしてくれたと。
当の兄ちゃんはグラスを口につけながらぷいと横を向いていた。


「和哉さんたら、未だに照れてるのよ」

「照れてない」

「那美さんのこととなるとこうなんだから。強情なこと」


本当に、ゆうかの時と比べてえらい違いだ。
それこそ特別な扱いということになるわけだが。


「あ、そうだ和人。ちょっとちょっともしかしてさあ」


さすがに姉ちゃんは目ざとい。ゆうかと俺の衣装と、髪型のことについてまで触れてきた。

みのるの方を見ると説明役を買って出る気はなさそうだったので、図られていたらしいということを手短かに説明した、ところ。


「あっらー、粋なことすんじゃない。さすがタイミングを心得てるわね」

「いいわね、それほどあからさまというわけでもないし。見事な手管ですわ」

「恐縮です」


姉ちゃんも那美さんも、眉をひそめることはないだろうと思ってはいたが、むしろおもしろがるので驚いた。みのるなんて褒められてるし。


「つーか、バレるのか。ゆうかが色味違って見えると思うって言ってたから大丈夫かと思ったんだけどな」

「もしかして、ってレベルだと思うわよ。そこまで気にはならなかったし」

「……と、言うか」


らしからぬ落ち着いた声で兄ちゃんがぼそりと言って、視線を集める。


「ゆうかちゃんがそう言うなら、大丈夫なんだろう。いろんな意味でな」


うしろでみのるが「ごもっとものようで」とささやいた。


「……不気味だ」

「ついに、分別ってことを覚えてくださったのね和哉さん」


兄ちゃんが、うるさい、と呟き背中を向けたので、2人は俺に手を振ってから、光る背広の後ろ姿に続いた。


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