私立秀麗華美学園
「このように光を通せば明るく、しかし量を重ねて沈めば暗く、黒に近い色にも見えます。多少のことで見え方など、いくらでも変わるというわけで」


薄く、桃色の膜みたいになったワインは波打って、シャンデリアの光をかき混ぜる。

ガラスに映る光と陰のコントラストが急にくっきり迫ってくるような気がして、思わず眉をひそめた。


「それでは今後とも、よろしくお願いしますよ」


にわかに決まりの文句を発して高見さんが頭を垂れたので慌ててならう。
手元にあったグラスは近くのテーブルに置かれていて、挑発するように周りの景色の色を映していた。

赤とか青とか緑とか。綺麗な衣装と飾り付けられたテーブルと。広いホールの気の遠くなるほど広い壁や天井の装飾の、色が、全部混ざってひとつのグラスに落ちている。


「ぼっちゃま」


控え目なみのるの声にはっとした。


「少しお疲れになりましたか」

「うん……いや、大丈夫」


顔を上げてかぶりを振る。
疲れたんだろうな、と思った。今更雰囲気に呑まれるなんて。


「休憩なされてもよいかと存じますが、あちらに、鳥居くんが」


示す方に視線をやると、雄吾が家族と共に立っていた。

奥に見える雄吾の父親、雄治朗さんは恐ろしいことに雄吾よりも背が高い。
対象的にとても小柄な、女の子が雄吾の足元にぴったりくっついていた。小さいながらきっちり豪華な装いをして、髪を編み上げている。

やがて雄吾と目が合ったので、こちらから近づいて行った。


「月城くんじゃないか。お目見えするのは久々だね」

「ご無沙汰してます」

「和人くん、なんだかいつもと雰囲気が違うわね。背も伸びたんじゃないかしら」


モノトーンカラーで統一されたいでたちながら、彫の深い顔つきと均整のとれたスタイルで人目を惹く雄治朗さんの華やかさには、落ち着いた色の装いながら美子さんのはつらつとした笑顔も引けを取らない。
昔から知っているがいつまでも若々しい夫婦だ。

ご両親にぺこりと頭を下げると、女の子、羽美ちゃんと目が合った。「こんにちは」と蚊の鳴く声で言われ、にっこりと微笑みを返す。

天使の羽根のようなドレスも、真っ白くつるつると輝くエナメル靴も、ミニサイズだが身に付ける人を選ぶデザインだ。
小柄ながらすらりとしたシルエットや綺麗な形で不思議な色をした瞳は、この小さな女の子の、兄や父と確かに通ずるものがある。

鳥居家の血筋、恐るべし。
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