私立秀麗華美学園
正面入り口付近の階段へ向かっている途中で、一瞬、会場の空気がどよめいた。
大人数の意識が何かに向いたような気配。声の重なりでできるざわつきが、一部だけ薄くなる。
原因は、今会場入りした一行のようだった。
前を歩いていたゆうかに小さく声をかける。
「……笠井……?」
巨大な意識ときらきらしい光を全身に浴びて入ってきたのは、笠井家の3人だった。
進と、あの金髪のくそ兄貴の雅樹。それから、がっちりとした大柄な体躯を折り曲げ背中で手を組んだ、姿勢の悪い50がらみの大男。
笠井家当主、つまり進の父親だ。
腰が悪いわけでもなかろうに、入場時にあの体勢とは恐れ入る。進や雅樹ですら扉をくぐる瞬間には張り詰めた表情で肩をいからせているというのに。
これほどの注目をものともしない飄々とした態度。遅れての会場入りで入り口が混雑していないとはいえ、側近とおぼしき黒スーツの男を3、4人連れている。
「そういや今日は、あいつ、見てなかったな」
「お父上の都合がつかずにこの時間になったって。先に息子たちだけでも出席させておけばいいのに」
3人には見る間に人が群がっていた。笠井家の登場を待ち兼ねていた人も大勢いることだろう。
雅樹はこの場でも相変わらずの金髪だ。細い眉のいかつい顔つき。しかしそれ以外はピシリと決めてきたもので、春頃中庭で見た、だぶだぶに制服を着崩した姿からは想像もつかない。
表向きの顔の作り方は、熟知しているということ。
「久しぶりに見たわ。特にご当主」
「兄貴の方、髪ぐらい染めてくりゃいいものを。ドレスコードさえ守ればいいってもんじゃねーだろ」
「あいつに顔をしかめることができる人が、いないんだからしょうがないわよね」
ゆうかはすっと前を向いて階段を上り始めた。俺も続こうとするが、進の様子が気になってどうしても視界に入れてしまう。
前から親との折り合いがあまりよくないというのは聞いたことがあった。
加えて夏休みの、雄吾が耳に挟んだ気弱な一面。進は今も1人、少し離れて歩いている。
3人揃っていてわざわざ次男に声をかける人間は多くいない。それぞれ嘘みたいににこやかな表情で応対する父親と兄のうしろで、進は最低限の薄ら笑いを浮かべてぽつりと立っていた。
一瞬足を向けかけたが、やつのプライドの高さを思って、やめる。
階段の途中から、既に華やいだ一角を形成しつつある彼らのあたりを見下ろす。
やっぱり少し離れたところで、姿勢を正して立った男が、それでもまっすぐ華やぎの中心を見つめている気がして、いたたまれないような気持ちになった。
大人数の意識が何かに向いたような気配。声の重なりでできるざわつきが、一部だけ薄くなる。
原因は、今会場入りした一行のようだった。
前を歩いていたゆうかに小さく声をかける。
「……笠井……?」
巨大な意識ときらきらしい光を全身に浴びて入ってきたのは、笠井家の3人だった。
進と、あの金髪のくそ兄貴の雅樹。それから、がっちりとした大柄な体躯を折り曲げ背中で手を組んだ、姿勢の悪い50がらみの大男。
笠井家当主、つまり進の父親だ。
腰が悪いわけでもなかろうに、入場時にあの体勢とは恐れ入る。進や雅樹ですら扉をくぐる瞬間には張り詰めた表情で肩をいからせているというのに。
これほどの注目をものともしない飄々とした態度。遅れての会場入りで入り口が混雑していないとはいえ、側近とおぼしき黒スーツの男を3、4人連れている。
「そういや今日は、あいつ、見てなかったな」
「お父上の都合がつかずにこの時間になったって。先に息子たちだけでも出席させておけばいいのに」
3人には見る間に人が群がっていた。笠井家の登場を待ち兼ねていた人も大勢いることだろう。
雅樹はこの場でも相変わらずの金髪だ。細い眉のいかつい顔つき。しかしそれ以外はピシリと決めてきたもので、春頃中庭で見た、だぶだぶに制服を着崩した姿からは想像もつかない。
表向きの顔の作り方は、熟知しているということ。
「久しぶりに見たわ。特にご当主」
「兄貴の方、髪ぐらい染めてくりゃいいものを。ドレスコードさえ守ればいいってもんじゃねーだろ」
「あいつに顔をしかめることができる人が、いないんだからしょうがないわよね」
ゆうかはすっと前を向いて階段を上り始めた。俺も続こうとするが、進の様子が気になってどうしても視界に入れてしまう。
前から親との折り合いがあまりよくないというのは聞いたことがあった。
加えて夏休みの、雄吾が耳に挟んだ気弱な一面。進は今も1人、少し離れて歩いている。
3人揃っていてわざわざ次男に声をかける人間は多くいない。それぞれ嘘みたいににこやかな表情で応対する父親と兄のうしろで、進は最低限の薄ら笑いを浮かべてぽつりと立っていた。
一瞬足を向けかけたが、やつのプライドの高さを思って、やめる。
階段の途中から、既に華やいだ一角を形成しつつある彼らのあたりを見下ろす。
やっぱり少し離れたところで、姿勢を正して立った男が、それでもまっすぐ華やぎの中心を見つめている気がして、いたたまれないような気持ちになった。