私立秀麗華美学園
階段を上がると吹き抜けのギャラリーに出る。1階のほぼ全面をぐるりと見下ろせるようになっていて、景色は壮観だ。うごめく人の多さに圧倒されてしまう。


ゆうかは手すり側から離れて俯き気味に立っていた。

ゆうかは高いところが少し苦手だ。それでもテラスに出ることを選んだところをみると、かなり参ってしまったようである。
人あたりする性質でもないのに珍しいなと思いつつ、手すりに寄りかかった。


程なくして上着を持ったみのるがやってきた。ゆうかはガウンみたいな荒い織りの物を一枚羽織ったなのでまだ寒そうだったが、テラスにも人はいるだろうし、防寒だけに気もつかっていられない。

テラスへ出るためみのるが重い戸を引くと、一気に冷気が襲いかかってきた。顔をしかめる。

外は真っ暗だったがテラスはなかなかの広さがあって、街灯みたいな明かりがあちこちに備え付けられていた。
木造りの椅子とテーブルが10セットほどあって、俺たちの他にも5人ぐらいの人が、座ったり、寄り添って夜空を眺めているようだ。

学園は郊外に位置していて、都会よりは星も見える。今日も、冷たい夜空にダイヤの粒みたいな光がちらほらあった。

手前の方の椅子に座ると、ゆうかは大きく深呼吸をした。


「肺が、冷たい」

「寒いなあ。人口密度もあってホールはだいぶ温かかったもんな」

「でもすっきりする。嫌な空気吸ってた感じが、ちょっと消えた」


本当に表情が少しすっきりしたようだった。白い息を吐いて、俺も空気を入れ換える。

頑なに立っていようとするみのると真理子さんも説得して座らせた。失礼します、と2人が音もなく椅子を引く。


「真理子、寒くない? 稔さんも、フロントに行かなかったんですか?」

「お2人に上着をお持ちするのが遅れますから」

「風邪引かれた方が困るって。ぜったい寒いだろ」

「鍛えてありますから平気です」


冗談とも本気ともつかぬことを真理子さんが言って、みのるが小さく笑った。


「どうかご心配なさらず。雪でも降らない限りは大丈夫です」

「こちらの方でも初雪はまだでしたね」


巧みに話題を転換させる2人のコンビネーション。でも、そうだ。雪といえば。


「……よく考えたら、今日って12月24日ね……」

「言われてみれば」


毎年のことで当たり前のようになっていたが、この巨大で混沌とした大集会は、名目上クリスマスパーティーということになっていたのだった。
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