私立秀麗華美学園
「そういえば、お腹空いてきちゃった」

「俺も。ほとんどちゃんと食ってねーもんなー。下行って、なんか取ってくるよ」

「でしたらわたくしが」

「いえ」


立ち上がりかけたみのるを真理子さんが制した。


「わたくしがお供いたします。ついでに上着も取って来たいですし」

「いってらっしゃーい。和人、わたしの好きなもの、取って来てね」


調子良く手を振るゆうかと黙って座り直すみのるを残し、俺は真理子さんに続いた。


扉を抜けてホールへ戻る。色と光と騒音の混沌が全身を包む。目をチカチカさせながら階段を降りていると、真理子さんが言った。


「お嬢様のお食事に関してのお好みなら、わたくしよりもぼっちゃまの方がお詳しそうですね」

「そうかもしれないですね。食事ごとにじろじろ眺めてるし」


以前ゆうかがダイエットしていた時の電話で、数日前の俺がゆうかの朝食の内容を完璧に言い当て、気味悪がられたことを思い出し、くすりと笑った。

一挙手一投足、良く言えば見守っている。すごく良く言えば。


「逆はそうでもないでしょうけどね」

「そんなまさか。行動を共にされてから、10年の月日が経っているんですよそれだけ隣で過ごせば、一定程度互いを理解できてまうものでしょう」

「時間の長さは関係性の深さに比例しますか」

「やはり、そうあって欲しいものです」

「……真理子さんは」


言葉は考えるよりも先に出てきていた。


「みのるのことが好きなんですか」


後ろで等間隔にコツコツと響いていた足音に、少しだけ長い空白が交ざった。
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