私立秀麗華美学園
すぐに再開した足音と共に喧騒の中へ降りて行った。

給仕から皿を受け取り、料理の乗ったテーブルをいくつか回る。

温かいものが多いが何度も新しいものと交換しているのだろう。料理を楽しむことをメインにしている者はまずいない。廃棄の量にはコックもため息だろう。

クリーム系のパスタとチーズの乗ったオードブル、フルーツマチェドニアなど、ゆうかの好物中心に食べ物を取り終えたところで、真理子さんがようやく口を開いた。


「遅ればせながら、先程のご質問に返答させて頂いてもよろしいでしょうか」


飲み物を持った彼女の方を見ると、軽い笑みを浮かべていて、俺の持った盆に視線を注いでいた。


「おっしゃる通りでございます。わたくしは月城家の使用人、村松稔を、あなた方がご誕生になるよりも前から慕っておりました」


そう、淀みなく述べた真理子さんは踵を返してレセプションに向かったので、俺も斜め後ろからついていく。


「というと、小学生の頃からでしょうか」

「もっと前でしょうね」


あっさりと答える。と、言うことは、4歳とか5歳の歳の頃から。


「その時から、今までずっと」

「はい」

「それは、やっぱり、幼馴染だから、ということになるんでしょうか」

「そう、でしょうね。例えば高校生の時分に初めて彼と出会っていたとして、今と同じ感情を持ったかと問われれば、答えはノーになるでしょう」


「幼馴染だから」。それは俺がゆうかを好きになった環境と、ほとんど同じと言っていいのだろうと思った。姫だから、気付けば隣にいたから。

だから、受付で真理子さんが借り物の上着を受け取り、階段の方へ向かい出したタイミングで、言った。


「言われたんです。姫だから好き、なんじゃないのかって」


相変わらず少し前を行く彼女の歩みは堂々としている。


「お嬢様にでしょうか」

「それと、外野にも」

「失礼を承知で申し上げます」


俺にしか聞こえない声で、真理子さんは言った。
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