私立秀麗華美学園
この時期は特に行事もなくテストもまだ先のことなので、大きな刺激のない日々が続いていた。
その日もいつも通り寒い寒いと言いながらゆうかと登校した。
やたらきらきらの教室のドアを開き、席に着く。隣の槙野さんは既に来ていて、俯きがちで座っていた。
よく見ると顔が蒼白だった。寒さのせい、ではないだろう。昇降口から室温は適温に保たれていて、かじかんだ手も2階の教室に上がってくる頃には自由に動く。
かばんを机に置いて、くしゃみをした時に槙野さんは初めて俺の存在を認識したらしく、顔を向けてきた。
「あ、月城くん、おはよう」
「おはよ……なんかあった?」
「えっ……と……」
正面から見た表情からもただごとではなさそうな様子がうかがえた。
彼女が目を伏せて口ごもっている間に、進が道すがらの女生徒にことごとく声をかけつつ教室に入ってきた。
槙野さんにも声をかけようとしたところで、異変に気付く。
「おはよう……? 槙野さん、どうかした? 何か、月城くんに不快な発言でもされたのかな?」
「勝手に俺を原因にすんな」
違うのよ、と槙野さんが慌てて手を振るが、そのまま再び口ごもってしまう。
追及するのもどうかと思ってつい進の方を見る。目が合う。逸らす。またやってしまった。
えも言われぬ不快感を抑えつつ槙野さんの方に目を向けると、ぎょっとした。彼女は両手で口元を押さえて、涙を流していた。
「まままま槙野さん……!?」
「ごっ、めんなさ……ちょっと、混乱しちゃって……」
俺は慌てふためいた。ゆうかはあまり泣かないし、はっきり泣いてる時は大体怒ってる時だから、下手に出て宥めすかしているうちに涙もひっ込んでいるのだが、そうはいかない。
そんな俺を横目にさすがの進くんは手慣れたもので、さっとハンカチを渡すと槙野さんの肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
低い声でささやいて、通路側に立って間仕切りになる。
仮面紳士ってのは、ちょっと悪かったかなと思った。
その日もいつも通り寒い寒いと言いながらゆうかと登校した。
やたらきらきらの教室のドアを開き、席に着く。隣の槙野さんは既に来ていて、俯きがちで座っていた。
よく見ると顔が蒼白だった。寒さのせい、ではないだろう。昇降口から室温は適温に保たれていて、かじかんだ手も2階の教室に上がってくる頃には自由に動く。
かばんを机に置いて、くしゃみをした時に槙野さんは初めて俺の存在を認識したらしく、顔を向けてきた。
「あ、月城くん、おはよう」
「おはよ……なんかあった?」
「えっ……と……」
正面から見た表情からもただごとではなさそうな様子がうかがえた。
彼女が目を伏せて口ごもっている間に、進が道すがらの女生徒にことごとく声をかけつつ教室に入ってきた。
槙野さんにも声をかけようとしたところで、異変に気付く。
「おはよう……? 槙野さん、どうかした? 何か、月城くんに不快な発言でもされたのかな?」
「勝手に俺を原因にすんな」
違うのよ、と槙野さんが慌てて手を振るが、そのまま再び口ごもってしまう。
追及するのもどうかと思ってつい進の方を見る。目が合う。逸らす。またやってしまった。
えも言われぬ不快感を抑えつつ槙野さんの方に目を向けると、ぎょっとした。彼女は両手で口元を押さえて、涙を流していた。
「まままま槙野さん……!?」
「ごっ、めんなさ……ちょっと、混乱しちゃって……」
俺は慌てふためいた。ゆうかはあまり泣かないし、はっきり泣いてる時は大体怒ってる時だから、下手に出て宥めすかしているうちに涙もひっ込んでいるのだが、そうはいかない。
そんな俺を横目にさすがの進くんは手慣れたもので、さっとハンカチを渡すと槙野さんの肩に手を置いて顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
低い声でささやいて、通路側に立って間仕切りになる。
仮面紳士ってのは、ちょっと悪かったかなと思った。