私立秀麗華美学園
「今回の仕事、なんかやること」

「ない」


何という即答。


「そんな顔するな。お前には、自分のことで考えるべきことがあるだろ」


そんな顔って、お前後ろに目ついてんのか。
と思いつつも、俺はおそらく雄吾の考える『そんな顔』をしていた。


「自分のことねえ……」

「お前がゆうかに言うなら言うで、俺に止める権利は無いし、そんな気もない」


雄吾は再び振り向き眼鏡を外した。


「だが、お前の一言で人生を左右される人間が出てくる可能性があるということは考慮するべきだ。重々承知だとは思うが」


雄吾が言いたいことはわかっている。

それほどまでに俺やゆうか、いや、この学園にいる生徒たちの親の会社は大きく、俺たちは自由に恋愛もできねえ重ーい運命を背負っているということだ。

雄吾の言うとおり、俺の一言でうちの会社の行く末が180度変わってしまうことは、十分にありうることなのである。


「だから悩んでるんだよ。いいよなー雄吾はそんな悩み、持ったこともねーだろ」


拗ねたようにそう言うと、雄吾の横顔が少しだけ哀しげに笑った……気がした。


「俺にだって、悩みはある」

「どんな?」

「そうだな……例えば、もっとハッキングの技量を上げなければな」


さっきとは違った不適な笑みを見せ、本音とも冗談ともつかぬことを口走る。


俺は雄吾の謎めいた性格やオーラは気に入ってるし、完全に信用しきっている。
それでも机には、『インターネットの裏世界』『個人情報保護システムの穴』『基本のハッキング』など、見るからに怪しい本だらけだ。

頼もしいっちゃ頼もしいが、同室の俺の身にもなってくれ……。


雄吾がまた哀しげに笑って、ため息を吐いた。












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