私立秀麗華美学園
「ね、この方って……」


槙野さんが俺に小声で聞いてくる。


「去年入った、ここの庭師さん。一回朝礼で挨拶してた」

「あぁ、あの方……」


ちょっと納得した顔をして、零さんの頭のあたりを見つめる。朝礼の時はこんなど派手な金髪ではなかったので、ピンと来ないのも無理はない。

……あれ、零さんに会うのは久しぶりなのに、この金髪、最近どっかで……


「彼女はクラスメイトです。ぜひ師匠に、聞いていただきたい話がありまして」

「あ、えっとわたし、2年A組の……」

「あーっちょっとストップ! えーっとえーっと、た? いや違うな。か? でもなくて、ま? ま……ま……あっ、そうだ、槙野さんじゃなかったか? 槙野映子ちゃんだ!」

「あ、はい、そうです」


よっしゃあと嬉しそうに零さん。この人は本当に、全生徒の顔と名前覚えようとしているらしい。


「悩んでいることがあるそうで、師匠の得意分野かなと、思いまして」

「つーことは恋愛絡みだな? なんにせよこいつらの友達で、しかも可愛い女の子なら、大歓迎だな!」


ばちっと完璧なタイミングで完璧なウインク。
人がウインクするとこ久しぶりに見た気がする。思ったより鳥肌ものだった。


「……よ、よろしくお願いします……」


困惑気味の槙野さんの手をとって、零さんはベンチまで案内した。

前職にはいつでも戻れる庭師だなあと思った。
< 411 / 603 >

この作品をシェア

pagetop